のどかな風景の中にある旧田烏小学校。ここで、へしこの製造が行われているという。校内に足を踏み入れると、階段や廊下も閉校前のままのようで、少しなつかしさを感じた。
やがて、取材をさせていただく角野さんが現れた。大柄で優しそうな雰囲気を持った方で、黒の作業着を身にまとい、職人の風貌だった。階段を登り、工房に近づくにつれて、だんだんとへしこのものと思われる独特の香りがしてきた。期待が膨らむ。
二階の工房には、合計3つの教室が使われていた。へしこの製造には、暑さが肝心ということで、クーラーは電源オフ。暑い中、取材が開始された。
取材を進めていくと、角野さんの「理想のへしこ」があるらしいことが分かった。そしてそのへしこは、角野さんの七年間つくってきたへしこたち100樽の中で1樽だけ。へしこづくりの難しさがここに表れている。
「身が琥珀色で、かすかに醤油の香りがし、もはやへしこではなかった」と角野さんは話す。それほど異次元の存在だったのだろう。一度でいいから味わってみたいと思わせられる語りっぷりだった。
お話を聞いたあと、実際に角野さんのへしこを味わった。刺し身は、口当たりがよく、食べやすくて、噛む度味が染み出す。火が通したものは、なお一層香りが引き立ち、旨味が増した。へしこをあまり経験していない私にとって、どれも想像以上の絶品だった。
今回、話を聞く中で一番に感じたのは、角野さんのへしこに対する熱い思いだ。
角野さんは自分にとって「100点満点のへしこ」を目指し、作り続けている。条件を少しづつ変えながら、調整をし続けるのは大変な作業だ。それをこなせるのは、角野さんが熱いへしこ愛を持っているおかげなのかもしれない。
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