「素材の良さを出すことを大切にしています。どんな料理でも、素材以上の味にはなりません。だからこそ、良いものを選ぶことがものづくりの原点です。」(福井缶詰株式会社 HPより)
そう語ってくれたのは、福井缶詰株式会社 専務取締役の重田洋志さん。缶詰製造に関わる4つの資格を持ち、買い付けから製造まで一通りを理解する、まさに“缶詰のプロフェッショナル”です。
福井缶詰は、サバ缶・カニ缶・たらの子缶などを手がける水産缶詰工場。創業は1943年、当初は軍への食糧供給を目的に設立されました。戦後の解散を経て、重田さんの曽祖父・北原定治さんが再建し、現在のかたちとなりました。

「入社当時は自分が創業家の一員であることにあまり実感がなかったんです。でも、会社に入ってから、その重みと責任を意識するようになりました」
かつては小浜で水揚げされた新鮮なサバを使ってサバ缶を製造していたそうですが、漁獲量の減少に伴い、主力製品はカニ缶へとシフト。一時は製造のほとんどを占めていたこともありました。1991年にはサバ缶製造を再開。ただし、小浜産のサバは使えず、冷凍国産サバでも理想の味にならず試行錯誤を繰り返しました。現在は、脂乗りのよいノルウェー産サバを使用し、味と品質を両立させています。
福井缶詰のサバ缶は、一般的なものよりも高価格帯で、主に土産物や贈答用として展開されています。
「小浜のスーパーで、おばちゃんがうちのサバ缶を大量に買っていくのを見たときは驚きました。『高いのに、まじか…』って(笑)。でも、それだけ信頼してもらっているのかなと。地元では味も名前も知られているのに、県外ではまだまだ。うちの弱みは“世に出す力”かもしれません。でも、一度知ってもらえれば、再び手に取ってもらえる自信はあります。」
今回の取材では、サバの水煮缶の製造現場を見学しました。驚いたのは「味」と「見た目」への細やかなこだわり。サバは半解凍の状態で処理され、機械で頭や内臓を取り除いたあと、手作業で血合いを丁寧に取り除きます。これにより、苦みや臭みが抑えられるのだそう。さらに、缶に詰める工程も手作業で行われており、見た目の美しさと身のふっくら感を両立させています。
こうした“ひと手間”の積み重ねが、あの一缶に詰まっているのだと実感しました。

また、重田さんは商品開発にも積極的です。福岡の「ふくや」と共同開発した明太子入りサバ缶は、2年半かけてようやく納得の味に仕上がったとのこと。柚子風味のサバ缶も、全国の柚子果汁を取り寄せて試作を重ねました。
さらに印象的だったのは「強健サバ缶」。サバ缶ブームの2年後にスタートしたこの商品は、ニップンと若狭高校とのつながりから生まれ、パッケージデザインも高校生が手がけました。アマニ油の栄養価を缶詰でも損なわずに届けるため、成分の安定性まで検証を重ねたそうです。

製品ごとに物語があり、それぞれに情熱が詰まっている。その深みに触れることで、缶詰の世界が一気に広がりました。
取材後、私は「強健サバ缶」をパスタにしていただきました。ゆでたパスタに缶の“汁”を絡め、サバの身をほぐしながら食べると、サバ特有のくさみはほとんどなく、ほどよい塩味とアマニ油のまろやかさが絶妙にマッチ。やさしい“うまみ”が体に染み渡り、体が喜んでいるようでした。
サバ好きの人はもちろん、普段あまり食べない人や少し苦手な人にも、ぜひ一度試してみてほしい。そんな気持ちになれるサバ缶です。
福井県立大学 木村芽唯
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