若狭湾の恵みを研ぎ澄ます「和旬いわもと」
小浜駅通り(はまかぜ通り)から一本入った路地に佇む「和旬いわもと」。和久里出身の店主・岩本英俊さんが営む日本料理店だ。大阪の名料亭で研鑽を積み、2010年に故郷・小浜へ。和食店「空木」の料理長を経て、2018年に独立を果たした。

この土地の恵みで、店の味はつくられる
「和旬いわもと」が何より大切にしているのは、旬の地元食材。その日にいちばんいいものを料理へ生かしていく。若狭湾の天然魚に加え、「若狭まはた」をはじめとした質の高い養殖魚。「朝採れの野菜が日常的に入る環境も、小浜ならではの強みです」と言って、岩本さんは微笑む。
朝は「若狭小浜お魚センター」へ出向くことも。「質は高いのに、価格が高騰しない点も、この市場の強みです。漁師や魚屋、さらには生産者が育む土地の恵みを生かし、使い切りたいんです」。岩本さんの言葉には、地元の食を担う人々へのまっすぐな敬意が宿る。

“若狭ぐじ”という、特別な魚
なかでも、岩本さんが惚れ込む代表的な食材が「若狭ぐじ」。若狭は、かつて天皇や朝廷に海産物や塩、米、酒などの食材を献上していた「御食国(みけつくに)」として知られる。その食文化の系譜のなかで、”ぐじ” と呼ばれるアカアマダイは、祝い事やもてなしの席を彩る特別な魚として受け継がれてきた。

「若狭ぐじ」を名乗るための基準は厳格だ。延縄や一本釣りで丁寧に水揚げされ、サイズや鮮度はもちろん、姿形の美しさに至るまで、厳しい基準を満たしたものだけが、その名を許される。この日、岩本さんが仕入れたのは、1kgを超える代物。おおい町大島の漁船「千弘丸」によるもので、「船上で神経締めまで施されることで、鮮度と旨みが最大限に引き出されるんですよ」。そう言って、目を輝かせる。
「和旬いわもと」で使うアカアマダイは、「若狭ぐじ」のみ。産地に身を置く料理人だからこそできる選択だ。焼く、蒸す、揚げる。魚の状態を見ながら、その日いちばんおいしくなる調理法を選ぶ。なかでも名物の「若狭ぐじ うろこ焼き」は、たっぷりの米油で、うろこの面だけを揚げ焼きに。うろこは軽やかな香ばしさをたくわえ、ふっくらとした身は甘く、噛むほどに澄んだ旨みがにじみ出る。おろし大根に塩ポン酢、さらにアラだしを合わせたみぞれあんが、その味わいを引き締める。
「若狭ぐじ」は懐石コースの一品としてはもちろん、単品でも用意し、その存在感をより鮮やかに伝えている。

ひとりで調理をこなす、フレキシブルさが自由を生む
店内はカウンターと小上がり3室。厨房に立つのは岩本さん一人だ。懐石コースを組み立てながら、別の席では一品料理を提供する。その複雑な流れを無理なく回す技術は、料亭時代の経験に裏打ちされている。
「修業時代は、1万円の懐石を300人分、7人で仕上げていましたよ。あの頃、鍛えられたから、ワンオペ調理も難なくです」と言ってにこやかな表情。しかも、すべての工程を自分で担うことで、味の設計から提供のタイミングまで、意図した通りに表現できる。使用する食材の大半は福井県内。県外産は鶏肉や生ハムなど、ごく一部にとどまる。料理人として向き合うテーマは明快。「地元食材の魅力をどう引き出すか?に尽きます」。その積み重ねが、日々の一皿に反映されている。

小浜で店を営むという選択
「和旬いわもと」は、遠方から訪れる人にとっての目的地であり、地元の人にとっては、この土地の豊かさをあらためて教えてくれる一軒でもある。特別なことをしているわけではない。ただ、若狭の海や山、その日届く食材と誠実に向き合い、一皿へと昇華している。その積み重ねが、この店ならではの味をつくっている。
私自身、小浜で暮らし、生産者や漁師、料理人たちと出会うなかで感じたことがある。小浜には「おいしい食材」があるだけではなく、その価値を次の人へつないでいこうとする人たちがいるということ。岩本さんも、その一人。
「この土地には、本当にいいものがあるんです。だから、それをちゃんと料理で伝えていきたい」。岩本さんはそう話してくれた。若狭おばまの旬を味わうこと。それは、小浜の風土、生産者や料理人といった作り手の思いに触れ、私たちが暮らす地域を少し誇らしく思える時間なのだと、「和旬いわもと」の一皿は教えてくれる。

和旬いわもと
〒917-0077 福井県小浜市駅前町4-30 KTビル1F
Tel:0770-52-6330
Open:17:30-22:30(22:00LO)
Close:日曜
instagram:wasyun_iwamoto

コメント