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2020年の西津地区地蔵盆

祭りや伝統行事などの価値とはなんだろう?昔ながらの姿が残っていること?観光客がたくさん呼べること?
各地の行事などを評価する文化庁の無形文化財の定義は“演劇,音楽,工芸技術,その他の無形の文化的所産で我が国にとって歴史上または芸術上価値の高いもの”と書いてある。

今年の西津地区の地蔵盆は、いつもとは違うかたちで行われた。
いつもなら鉦と太鼓の音があちこちで鳴り、子どもたちの「まいってんのー まいってんのー まいらにゃ とおさんぞー」という元気なお囃子の声が聞こえてくる通りを歩いても、とても静かだった。
去年は大雨だった地蔵盆だが、今年は晴天でしかも日曜日。本当だったら大変にぎやかな1日だっただろう。きっと、子どもたちも大金を稼ぐことができたはずだ。

例年なら地蔵堂などが建ち、子どもたちが走り回っている通り(こんな感じで

小浜で地蔵盆について話を聞くと、たまに「西津に住んでる子どもたちは怖かったなぁ」と耳にする。昔は、祭壇前に飾る「南無地蔵大菩薩」と書かれた五色の幡や「大将旗」を、各地区の一番年上の子が大将となり、水鉄砲や水風船を駆使して取り合っていたそうだ。小さな石に地蔵さまの絵を描いた「出張地蔵」と共に通りを封鎖して、お賽銭をあげないと道を通さなかったり、当時の子どもたちの祭りはなかなか過激。それもそのはず、旗の数やお賽銭の総額で、その年にもらえるお小遣いが決まっていたからだ。今は、水鉄砲や水風船の出番はあるが、遠くの地区の五色幡を奪いに行ったりすることはなく、大人しくなっている。

白・黄・赤・緑・青の五色の幡。この順番は地区によって違うらしい

西津地区の地蔵盆は準備から当日の祭りまで子どもたちがとりしきるのが特徴的(今は、少子高齢化に伴い子どものいなくなったところは大人が行っている)。子どもたちの準備には、次のようなことがある。
 1. 準備運営費用の集金に各家を回る
 2. まちなかの祠からお地蔵さんを取り出して、海岸に運び一年の垢落としとして海で洗う。そして、地蔵さまに化粧をする。*最近では、海で洗ったり(水道水で洗っているとのこと)、毎年化粧変えをする地区は少ないそうだ
 3. 行灯の張替えと絵付け
 4. 五色幡と大将旗の制作
 5. 門飾りの笹竹の準備

ただ、今年は違った。地蔵盆のためにつくられる地蔵堂はなく、地蔵さまが祀られる祭壇もない。いつもはお賽銭を入れて子どもたちの「ありがとー ありがとうー」という囃子言葉と、ちょっと恥ずかしそうに演奏する風景を楽しみに、西津にいくつもある祭壇を回るのだけれど。
今年の地蔵さまは、祭壇ではなくいつもいる祠にいた。いつもの祠だけれど少し様子が違う。いつもは飾られていない五色の幡が風にそよぎ、祠の中には美しい御供物。お菓子がいっぱいお供えされている祠もあった。
「こんなことは初めてだと思います。今までなかったんじゃないかな」お参りをしていた地元の方は、ちょっと寂しそうにそう言いながら、地蔵さまの新しい前掛けを丁寧に整えていた。

祭壇はなくても、次から次へと地元の人がお参りに来ていた
いつもの祠が飾られて、さいせん箱もしっかり準備されていた。この飾りの祠を見ることができたのは貴重かも

小浜の化粧地蔵はいつから地蔵さまに彩色するようになったかのか、それについての資料も口伝もないそうだ。でも、誰に聞いても楽しかった子どもの頃の地蔵盆を語ってくれる。子どもが今いない地区は、大人たちが準備。昔はチョークで彩色していたけれど、今は落ちない絵具で化粧。たくさんの子どもの手で海に運んで洗っていたのが水道になって。地蔵堂や祭壇が準備できなければ、出来る限りの飾り付けとお供えをして。

地蔵さまの前には、美しい御供物。今度、この美味しそうなメニューについても教えてもらおう
今でもチョークで彩色していると思われる地蔵さまもいる

今年は、子どもたちのお囃子を聞いたり、水を掛け合って走り回ったり、それを見守る大人たちの姿は見ることができなかったけれど、地蔵さまたちの表情は優しく微笑んでいたような気がする。「これはこれで良いよね」と。

穏やかな表情の地蔵さまと、いつもの祠に飾られた幡が気持ちよく流れる

見た目や方法などのかたちが変わったとしても、地蔵さまをみんなで大切にするという思いは変わらない。今年みたいなコロナウイルス感染症という緊急事態にも各々の地区で考えて対処して、その時代その時代に合わせた祭りを続けている。西津の地蔵盆は、子どもの感性がそのまま表現されたような愛らしい彩色の地蔵さまももちろん芸術的で希少だが、地元の人たちの思いが紡ぐ、小浜の誇るべき無形文化だと思う。
それにしても、今年の地蔵盆は小浜らしい穏やかで優しい変化を感じる祭りだった。個人的に小浜に暮らすきっかけともなったこの地蔵盆。私も地元民だからこそ今年も撮影することができた。この温かな風景の続きが来年も楽しみだ。

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堀越 一孝

堀越 一孝

フォトグラファー。デザイン事務所UMIHICOの代表。

1982年神奈川県川崎市出身、小浜市在住。 小浜の伝統産業である塗箸の老舗「株式会社マツ勘」で商品企画や広報を行いながら、デザイン事務所UMIHICOの代表をしています。 本職は、フォトグラファー。2014年より写真でまちを元気にする新しい写真の方法『ローカルフォト』を核としたプロジェクトで日本各地をぶらぶらしています。

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コメント

    • 西村隆雄
    • 2020.11.15 11:24am

    昭和20年ごろ(小学校6年生)大阪から疎開先の西津に住んでいました
    輪になった12,3人の子供が飾りを着けた紐を廻しながら「なーむ地蔵さん〜だいぼさ〜つ」と唱えます
    友達もみな仲良しで懐かしい思い出です

    • 堀越 一孝

      飾りをつけた紐を廻しながらですか?!どんなものだったのか、地元の方々に聞いてみます。コメントありがとうございました!

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