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岡さんの白いタケノコ

岡弘さんの畑でタケノコ掘りをさせてもらうのは、今年で三度目。タケノコ掘りをさせてもらったのは、2020年においしいOBAMAカードの取材に伺わせていただいた時に聞いた一言がきっかけだった。
「毎年、小学生たちがタケノコ掘りを楽しみにしていたのだけれど、今年はできないなあ」
新型コロナウイルス感染症が発生し、イベントなど集まることが制限され、体験することが遠のいた日々。岡さんの栽培するタケノコは“勢浜(せいはま)のたけのこ”と呼ばれ、かつては小浜の名産品の一つだった。今では生産者の減ってしまったその名産品を、地元に暮らす子どもたちに一人でも多く、存在とおいしさを知ってもらうための体験。それができなくなってしまったことに、岡さんはすごく残念そうな表情をされていた。

2020年の取材から、早いものでもう3年。ちょっと照れながら取材を受けてくれた岡弘さん。

普段目にする稲作の田んぼや野菜菜園ではなく、山で行われるタケノコの栽培。私は取材するまで、生産者の方が持つ竹林に自然と生えてきたものを収穫して出荷しているものだと思っていた。だから、岡さんの畑は特に世話をするわけではない鬱蒼とした暗い竹林を勝手に想像していた。
でも、全く違った。光と風が心地良く通る明るい竹林。フカフカの足元。土を掘ると出てくる何層にも重なった籾殻が、長い時間をかけて丁寧につくられた畑だということを教えてくれた。
「竹は強いからどこでも育ちます。でも、好き勝手に育ってしまったら、根が混んでしまって、おいしいタケノコを収穫することはできません。だから、親竹の管理が大切。毎年残すものと切るものを見極めて、根がストレスなく伸びることのできる土壌を作ってあげるんです」

きれいに間伐がされ、フカフカな土は、子どもたちも安心して歩き回ることができる。

勢浜のたけのこは、昔、中京圏でも盛んに取引されていた春の名産品だった。勢浜の粘土質の斜面と赤土、小浜の気候、生産者の腕が育てる小浜ならではの食材。
「土にヒビが入っているところを掘ってみてください。ちょっと盛り上がっていたり。そこにタケノコがいます。ほら」
少し歩いて、岡さんはすぐにタケノコを見つける。私を含め参加者が何度も通ったはずの場所に、大きなタケノコが生えていたりする。めちゃくちゃ難しい。当たり前だが、山の斜面は平らではない。上には枯葉や草も生えている。
そして、見つけた後も大変。籾殻で柔らかくなった土とはいえ、タケノコを傷つけないよう気をつけて穴を掘り、一発で仕留める。全てに経験が必要となるタケノコの栽培。結局今年、私は自分の力で見つけることができなかった。

どこにタケノコの頭があるか、分かりますか?

「私も40年以上タケノコに関わってきたけれど、今年は一番少ないかもしれない。気候のせいかなあ」
今年は、裏年と呼ばれる凶作の年だった。昨年は、私や子どもでも見つけられるほどたくさんのタケノコが生えていた。こうして毎年お邪魔させてもらうことで、いつも同じではないという当たり前だけれど、普段は見逃してしまうことを学ばせてもらえる。
勢浜のたけのこの特徴は、なんといっても真っ白で美しい色。タケノコを見つけ、土を掘り進めると見えてくる白。皮の下にうっすらと透ける白だけではなく、宝石のように輝く真っ白な根元が迎えてくれる。今年は特に貴重なタケノコ。

頑張って土を掘って、白いタケノコに出合えると、本当に感動する。トドメは岡さんに助けてもらうこと多々。

家に帰り、岡さんの奥様にいただいたタケノコご飯を食べる。みずみずしくてシャキッとしたキレの良い歯応え。全くえぐみのないやさしい甘味。ご飯の上に添えられた山椒の葉がさわやかに香る。春が来た!そう言いたくなるおいしさ。

タケノコを知り尽くした岡さんのつくる最高のタケノコご飯。最高です。

「タケノコ栽培をやりたいって人が来たら、惜しみなく教えます。良い環境も、今なら用意できると思いますし」
小浜ならではの白いタケノコ。今まで繋いできた確かな土壌と風土がここにはある。そして、岡さんがいる。
「来年はきっとたくさんのタケノコが生えるだろう」と岡さんは言っていた。この言葉をこれから先もずっと小浜で聞くことができるよう、岡さんの白いタケノコだけではなく、“勢浜のたけのこ”が続くことを願っている。

2023年のタケノコ掘り記念写真
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堀越 一孝

堀越 一孝

フォトグラファー。デザイン事務所UMIHICOの代表。

1982年神奈川県川崎市出身、小浜市在住。 小浜の伝統産業である塗箸の老舗「株式会社マツ勘」で商品企画や広報を行いながら、デザイン事務所UMIHICOの代表をしています。 本職は、フォトグラファー。2014年より写真でまちを元気にする新しい写真の方法『ローカルフォト』を核としたプロジェクトで日本各地をぶらぶらしています。

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