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若狭小浜ではない御食国、淡路島を訪ねて

「皇室や朝廷に食材を献上してきた御食国(みけつくに)には、小浜を含めた3つの地域があります」と、自分の暮らす福井県小浜市を紹介する時に説明することが多い。
でも、小浜以外の御食国である淡路(兵庫県)と志摩(三重県)のことを、実はよく知らない。
島であったり、リアス式海岸に面していたり、小浜と同じように豊かな海産物が捕れる風土に恵まれているということは想像できる。小浜に暮らすようになって、どちらにも勝手に縁を感じるようになった。

観光では行ったことがあるが、暮らしはどうなのだろう。ちょうど気になっていたタイミングで、淡路島を拠点に食を中心とした地域プロデュースや企画、デザインなどを手がけられている「studio kahika」の北祥子さんの元へ伺う機会をいただいた。
「日本海側の小浜から淡路島に行く。」この言葉だけだと、とても遠そうだ。しかし、経路を調べると3時間弱。前から感じていることだけれど、小浜は3時間あれば車でどこへでも行ける(どこの地域もそうかな?)。大阪も名古屋も金沢も。精神的距離ほどどこからも遠くない便利な地域だと思う。

淡路島をご案内いただいた北祥子さん(左から2番目)と富田祐介さん(左から4番目)とfarm studioで。

みんなで拓くfarm studio

「ここは、かつて耕作放棄地だった場所です。そこを地域の農家さんを中心にワークショップで畑に再生したり、放牧牛を飼育したり、みんなで活用しています。その『farm studio』の中心施設となるイートインのできる直売所もこないだオープンしました」
今回淡路島をご案内いただいたのは、株式会社シマトワークスの富田祐介さんと北さん。富田さんは、farm studioの企画も手がけられ、淡路島をフィールドとした企業研修や公共施設の運営、観光、食、人材育成に関する企画など、多様な事業を展開している。

富田さんが企画された“ただの観光農園では得られない経験”を実際に説明してもらいながら体験。

farm studioで育てられているハーブを摘み、ハーブウォーターを作って、みんなで飲む。一段下には、耕作放棄地の活用ワークショップ参加者が利用者となった畑がある。直売所では、いちご園をはじめとした農園を運営する山田修平さんと優子さんに、マスタードの作り方を教えてもらいながら、淡路島での暮らしのことなどをお聞きした。山田夫妻のつくるジャムも本当においしかった。

畑の真ん中にある拠点。こういう場があるだけで、体験の幅と活用方法がガラッと変わる。

小浜でも増加する耕作放棄地。farm studioでは、その荒れ地を憂うのではなく、その荒れ地で何を描くことができるだろう?と、活用できる余白として考えていた。地域の料理人が共同で放牧牛を飼育したり、イタリア料理店主がぶどう畑でワイン用のブドウを育てていたり、ピザ窯を作って畑をくつろぎと楽しみの場に変えたり。富田さんなどが企画をして、仲間が集まり、新しい風景が描かれる。その風景は、どれも前向きで芯が太く感じた。

「farm studio」の農園と直売所を担当される山田さんご夫妻。とても優しく、柔らかな空気で迎え入れてくれた。

なるとオレンジの未来を担う森果樹園

たまにレモンを目にすることはあるけれど、小浜産の柑橘を手にすることはなかなか難しい。北陸は冬に雪が多く、日照時間が短いこともあり、果物の栽培にはあまり向いていないそうだ。連れて行ってもらった「森果樹園」では、約300年前に淡路島で見つかった原種の柑橘「なるとオレンジ」を栽培している。
「最近のみかんなどの柑橘類は、甘さに注目されがちですが、『なるとオレンジ』の特徴は、酸味のある果汁とほろ苦い果皮、そして、強い香り。とにかく皮がおいしい。この特徴から製菓素材などに最適なんです。皮がおいしいというのは、原種ならでは。その特徴を活かせるよう、昨年から加工品の製造も始めました」
説明してくれたのは、森知宏さん。2016年に代々受け継がれてきた果樹園を継ぎ、なるとオレンジをはじめとした農業を営んでいる。

果樹園に行く前に「なるとオレンジ」について説明してくれた「森果樹園」の森知宏さん。

「この木は、樹齢約90年。代々受け継いできた木のおかげで今も栽培ができています。昔は今のように作業効率を考えて、計画的に植えていなかったせいか、非常に手間はかかるんですけどね(笑)」
森さんの果樹園は水捌けのいい急勾配と、良い意味で整備されていない果樹の生え方が野生的。淡路島の原種である、なるとオレンジらしさを感じさせるようだった。

太く様々な方向に広がる木の幹から、強い生命力と生きてきた歳月を感じる。

味見をさせていただいたなるとオレンジのジュースからは、普段飲むような甘くて軽いジュースではなく、心地良い酸味が、もぎたての果肉を頬張っているような満足感。クラッシュタイプのオレンジピールを混ぜたジェラートは、加工後とは思えない生命力を感じさせ、強い芳香がとてもおいしかった。

絶品だったなるとオレンジピール。加工することで年間を通して販売することができるようになった。

なるとオレンジも生産者の高齢化と後継者不足、消費者の趣向など、課題は少なくない産業。しかし、森さんは加工という方法でその価値を上げ、産地としての未来を拓いている。元々プロダクトデザイナーであったという背景もあって、自社商品のパッケージや情報発信もとてもかっこいい。

即興でつくったなるとオレンジポーズで。背景となる急勾配も全て果樹園。

案内したくなるまちへ

この日はその他にも、かつて紡績工場としてまちの発展を支え、美術館として文化を発信してきた赤レンガ造の建物をリノベーションした“島と人を紡ぎ、人と人を紡ぐ場所”として富田さんが運営する「S BRICK」や、“日常から離れて働くことの本質的な意味を探究”する「Workation Hub 紺屋町」など、盛りだくさんにご案内いただいた。
どれも地域資源を活かし、わくわくを創り出すしかけを備えた場所ばかり。

元酒屋の雰囲気を残しながら、長屋をリノベーションしたワーケーションハブ「Workation Hub 紺屋町」。

淡路島は、拓かれていた。昼食のしらす釜揚げ丼を食べた「中原水産有限会社」の横でちりめんじゃこを作っていた社員さんも気軽に話してくれたり、富田さんとまちを歩くとみんなが「トミー!」と、声をかけてきたり。
そして、その土地に暮らしている人にまちを案内してもらうことは、本当に楽しい。ガイドブックだけでは見えづらい魅力も、暮らしも見えてくる。

「まちが面白くならないと、ぼくらも面白くない。自分達もダメになってしまう」と、富田さんが案内中に語ってくれた。本当にその通りだと思う。そして、そのまちを面白くするのは自分達自身。自分達の思いと行動で変えていくことのできる資源は、まちにたくさんある。
次は、私が富田さんや北さんを小浜で案内する番。豊かな小浜をご案内して、勝手に感じていた縁から、御食国という背景を持つ地域のつながりへ。まだ見ぬ小浜の面白さを拓いていきたい。

やっぱり、おいしいものは旅の記憶に欠かせない。食のまち小浜らしい観光体験をどう案内していこうかな。
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堀越 一孝

堀越 一孝

フォトグラファー。デザイン事務所UMIHICOの代表。

1982年神奈川県川崎市出身、小浜市在住。 小浜の伝統産業である塗箸の老舗「株式会社マツ勘」で商品企画や広報を行いながら、デザイン事務所UMIHICOの代表をしています。 本職は、フォトグラファー。2014年より写真でまちを元気にする新しい写真の方法『ローカルフォト』を核としたプロジェクトで日本各地をぶらぶらしています。

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