空に登っていくかのような一直線に伸びる階段を登り、「妙見さん」の愛称で親しまれている妙見山から海を眺めると、その間には線路、民家、畑と美しい風景が広がる。ここは勢浜。「妙見さん」は、北極星を神格化した「北辰妙見大菩薩」を祀り、海上保全の神、貿易を営む商人の信仰する商業の神として昔から尊信され、今でも西津地区など遠方の漁師も参拝に訪れるそうだ。そんな灯りのある地域で、未来へつなぐ共同活動が行われると聞いてやってきた。
未来への架け橋となる共同活動
「もう今年で3年目。昨年までは指導員も来てくれていたけれど、もういないよ。材料や道具の準備から当日の作業まで全部自分たちでやる。業者に頼めば楽なんだけど、自分たちがやりたいことを全部任せたら莫大な金額になってしまう。お金がないからできないでは地域のこれからがつくれない。誰かがやらなければいけないことだから、自分たちでやってみたんや」と、話してくれたのは、「勢浜地域農地保全委員会」代表の木橋直和さん。集落の農業用水路が整備されたのは40年ほど前。その水路もかなり老朽化してきた。特にU字溝をつなぐ目地部分が劣化してしまっているとのこと。「そこからの水漏れがU字溝の下に入って土を削ってしまう。そうすると、U字溝が落ちてしまったり、田んぼに水が流れてしまって、田んぼが乾かなくなってしまう。その水が畑に入らないように溝を掘ったり、余計な手間が増えるんや。コンバインも入れなくなってしまうし。そしたら美味い米は作れんよ。もし、地域にそんな農地しか無くなったら、農業をやる人がいなくなるやろ。だから、この水路の補修は必須なんや」木橋さんの言葉から、集落にとってどれだけこの水路が大切なものか伝わってくる。
「水路の補修に来てくれるのは、農業者だけではないですよ。“地域をみんなで守っていく”という目的に賛同してくれる人は来てくれます。分からないことがあれば材料メーカーに聞いたり、初めての人には経験者が教えたり。これは、集落で景観や環境を守っていくための下準備だと思っています。だって、農業者だけではなく、集落も確実に人は減っていますから」そう話してくれたのは、ここ勢浜の特産品である「勢のたけのこ」の生産者でもある岡弘さん。「今ではたけのこを生産する農家も3,4人しかいなくなってしまいました。昔は京都や名古屋の方まで出荷する人気の品だった。今でも春になると知っている人は買いに来てくれるけど、小浜市内でも今では知ってる人が少なくなってきたんじゃないかな」と、岡さんは竹林を眺めながら語ってくれた。
誰かに頼らないまちづくり
「この作業で一番大切なのは段取り。これが大変なんや。材料費(道具を含む)だけでも50万円くらいかかる。でも、業者にお願いすることを考えたら安いもんよ。段取りさえできれば、手順は初めての人でも参加できることばかり」と語る木橋さんの軽トラックの荷台には、大量の材料や道具が積み上げられていた。この日の作業対象となるU字溝の範囲はなんと260m。前日のうちに水路を洗浄し、この日は「メジアンシート施工作業」。木橋さんお手製の作業手順書を手に、みなさんはそれぞれの役割に散らばっていった。
勢浜の活動は、多くの人数と時間が必要な地道なものだ。この作業自体が、地域外の人を集めたり、地域の魅力として目に見えるものではない。しかし、この日の共同活動がなかったら20年後、30年後、この地域の風景はなくなっているかもしれない。
誰かがやらなければならないことを自分たちでやる。試行錯誤しながら同じ志を持った仲間で進む時間は、地域のコミュニティや絆を育み、確実に未来の風景を作り上げるに違いない。
ここに、小浜をまもる風景がある。
次回は、『一般社団法人 松永あんじょうしょう会』。お楽しみに!
※:記事内の役職や肩書きは取材当時のものです。
小浜の風景をまもる人や活動を伝えるパブリックマガジン『小浜をまもる風景』は、小浜市内の各公民館または、小浜市役所2階の農政課前で配布しています。このWebバージョンとは違う写真も掲載しておりますので、是非お手にとってご覧ください。
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