2021年5月6日、日本で57年ぶりにコウノトリのヒナが3羽誕生した。奇遇にも、57年前に最後の雛が生まれたのも同日だったそうだ。東寺の荘園でもあった里山は、ゆるやかな山に包まれ、美しい田園が広がる。ここは、太良庄。2024年で4年連続、コウノトリが飛来し、ヒナのふ化が確認される環境と、知る人ぞ知るおいしい名物が、まちのみんなで作られていると聞いてやってきた。
“できるだろう”を“できること”に
「はじめから、自分たちでやろうと思っていました。業者に頼んだりすることは、考えたこともないですね」
真っ青な秋空が広がる収穫後の田んぼで、カンカンカンと大きな音を響かせる場所に伺うと「太良庄荘園の里保全隊」の高鳥佐太一(たかとり さだかつ)さんが話してくれた。大きな音の正体は、繊細に力強く動く二台のショベルカー。排水路の側面パネルを固定するための矢板と呼ばれる金属の板を地面に打ち付けていた。太良庄では、平成19年頃から老朽化した排水路を自分たちの手で修繕している。
「土の重みで排水路の側面がどんどん倒れてきてしまう。倒れてきてしまったコンクリートのアームとパネルを引き抜き、押し込んできている土を取り除く。そこに垂直に矢板を打ち込んで、後ろにパネルと土を戻す。作業はとてもシンプルですが、きっと業者に頼んだら高額になるでしょう。地域内には建設関係の人間もいましたので、独学で今の方法に辿り着きました。この方法が一番簡単ですし、今のところは壊れたことありません」と話してくれた高鳥さんは、会話の合間にも軽トラックに積んだ重い矢板を何度も水路に運んでいた。高鳥さんの他にも、細かくショベルカーに指示を送る方、コンクリートのパネルを外した後の土をスコップで取り除く方、それぞれが自分の役割を的確にこなし、あっという間にきれいな排水路ができあがっていった。
「太良庄はね、とにかく家族のように仲が良いんですわ。昔から農業地域ということもあって、川掃除や公園の草取りなんかの奉仕活動では、50名以上は出てきてくれますし。小さな活動は毎週のようにやっていました。新型コロナウイルス感染症の影響で去年からは少し減ってしまったけれど。特に毎年やっていた11月の『収穫祭』は地域の楽しみ。そこで髙鳥重郷(たかとり しげさと)さんをはじめとする『太良の庄 荘園そばクラブ』の打ってくれる“そば”は格別です。みんなの大好物」と、2年続けて新型コロナウイルス感染症の影響で残念ながら開催することができない「収穫祭」のことを高鳥さんは教えてくれた。
おいしい地域の名物
「減反政策の一つとして、平成5年頃からそばを田んぼに植えてみたんです。そうするとそばがよく実った。せっかく実ったのだからと、試行錯誤して食べてみると、見た目は不細工だったけれど、とてもおいしかった。そこから、テレビやDVDを参考にしながらそば打ちを学びました」今では小浜市内だけではなく様々な場所からそば打ちの講師として招かれるほどになったが、インターネットなどもなかった当時、学ぶことも大変苦労したと語ってくれたのは「太良の庄 荘園そばクラブ」代表の髙鳥重郷さん。
「『太良の庄 荘園そばクラブ』は現在6名。地域で収穫したそばを『収穫祭』で振る舞ったり、依頼のあったそば打ち教室に出向いてそば打ちを教えたりしています。そばは道具も大きくて重いので、外に行くのは大変なのですが、依頼主から『道具は私たちが運びますので』なんて言われてしまうから、なかなかやめることができません」と、髙鳥さんは照れた表情をしながらそば打ちの準備をしてくれた。
業者に頼ることを考えず地域内の仲間で修繕する。減反政策から偶然生まれた地域の名物。どちらも自分たちで学び、実行することで生み出された太良庄の文化だ。
餅は餅屋という言葉はあるが、できなかったことが自分たちでできるようになると、それはひとつの楽しみになる。仲間たちで面白さや成功体験を共有していくことで、つながりはより強くなり、どんどん自分たちの地域が楽しくなっていく。誰に聞いても「この地域は仲が良いんです」と話す太良庄。今年生まれたコウノトリが巣立つまでずっと一緒にいたことは、とても象徴的だった。
ここに、小浜をまもる風景がある。
次回は、『ふるさと府中を創る会』。お楽しみに!
※:記事内の役職や肩書きは取材当時のものです。
小浜の風景をまもる人や活動を伝えるパブリックマガジン『小浜をまもる風景』は、小浜市内の各公民館または、小浜市役所2階の農政課前で配布しています。このWebバージョンとは違う写真も掲載しておりますので、是非お手にとってご覧ください。
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