「食のまちづくり条例」を日本で初めて制定し、古来より宮廷に食材を供給する「御食国」であった“食のまち”小浜。この“食のまち”は、ローカルを舞台に食を表現するプロたちに、どう映るのでしょうか?
2024年9月下旬、「食を旅するおいしいOBAMA」と題して4名のゲストをお招きし、二泊三日のモニターツアーを開催しました。
集合は午後2時過ぎ。参加者には、「食と自然、環境」のストーリーを一皿で表現する「Bee by konomichi」のシェフ・蜂谷拓広さん(鹿児島)や、「種と旅と」などの活動にも取り組み、ローカルから食材や自然・風土の魅力を発信するシェフの第一人者「BEARD」の原川慎一郎さん(長崎)、世界各地の食と暮らしの知恵を翻訳し伝える「ヤスダ屋」主宰で料理人の安田花織さん、そして作り手(生産者)、使い手(料理人)、食べ手を結ぶフードマガジン「料理通信」の編集部の浅井裕喜さん(東京)と、日本各地で活躍する食のプロたちが集まりました。

小浜の水
今回のツアーテーマは、小浜の伝統的な味わいと食の現場です。
まず訪れたのは、毎年3月2日に「お水送り」が行われる神宮寺。次に、夏の風物詩「くずまんじゅう」を味わうことのできる「伊勢屋」や、豊富な湧水を体感できる雲城水と津島名水の水汲み場を巡りました。
「お水送り」は、約1200年前、奈良の東大寺二月堂で行われた修二会(しゅにえ)に呼ばれ、おいしい若狭の魚をお供えしようと遅れてしまった遠敷大明神が、その素晴らしさに感動し、食の源となる若狭の香水(聖なる水)を毎年送ることを約束したことが起源と言われています。

「食の豊富さを物語り、水を食の源として古来から伝える小浜の懐深さはすごい」
「水と葛、あんこのみで作られる、ここでしか食べることのできない和菓子があるのは、まちの大きな魅力」
「こんなに性格の違う水が海沿いに湧いているなんて驚き!」
ゲストたちは、食の源である水が小浜の文化となり、日常に根付いていることに感嘆しました。


続いて訪れたのは、2024年の「福井県内を訪れた観光客が選ぶ『誰かに紹介したい観光地ランキング』」で見事1位に輝いた阿納エリア。昭和から平成に変わる頃からふぐの養殖が始まり、若狭ふぐを堪能できる民宿に泊まることは、小浜を楽しむコンテンツのひとつ。コロナ禍に下を向くことなく、民宿のほとんどがリノベーションや改修を行い、一層魅力を増しています。

ツアーでは、「若狭ふぐの宿 下亟」にて、店主が育てたふぐを堪能し、翌早朝には養殖の現場を見学しました。ふぐ同士が傷つけ合わないよう、一匹ずつ歯を抜く丁寧な作業や、病気の兆しがあればすぐに淡水消毒を全てのふぐに施すなどの細かな対応。その大変な手間と愛を注がれて若狭ふぐは育まれていることを知りました。



小浜の食の現場

海では漁船が行き来し、陸ではトラックが往来。小浜の早朝、最もにぎやかなのは川崎エリアです。海産物が集まる「福井県漁連 小浜支所」と農産物が集まる「小浜市総合卸売市場」。どちらからも威勢の良い競り声と、食場の音が響きます。そして、揚がったばかりの海産物を購入できる「若狭小浜お魚センター」と、朝採れ野菜をすぐに購入することのできる「赤井商店」、食のプロたちはこの日の夜に開催する「ディスカバーナイト」と題した料理会に向けた食材を厳選し、小浜の海産物や朝採れ野菜を選びました。

四十物(あいもの)と呼ばれる小浜の誇る水産加工品は、文化交流の道「鯖街道」が生み出したもののひとつ。その加工に欠かせない調味料。創業から300年以上変わらない醸造法で米酢をつくる「とば屋酢店」で壺仕込みの酢について見学し、そこで試食した現在は販売されていない米酢の仕込み粕に、ゲストは興味津々でした。

また、小浜の名産品「若狭小浜小鯛ささ漬」の加工現場も見学。「加工の基本となる“洗い”に使う水を最も大切にしています」と話す「上杉商店」では、とば屋酢の米酢と雲城水系の地下水を使用した小鯛ささ漬を作っています。山盛りのレンコダイを素早く三枚に下ろす職人技は、つい見惚れてしまうほどの妙技です。



昼食は、地元食材を使ったイタリアンが楽しめる「arcobaleno」で。食事の後、「arcobaleno」で食べたサラダの野菜を作る谷田部で農業を営む奥井荘一郎さんの畑を訪ねました。ここでは、小浜伝統野菜のひとつである谷田部ネギの特徴的な曲がりのある根元を仕込む作業を見学。さらに「塩瀬農園」の後藤秀之さんの畑へ。奥井さんも後藤さんも、多品種少量生産で少し珍しい野菜を栽培しており、一般の人にとっては調理に悩むような野菜も、料理人たちにとっては魅力的な食材ばかり。また、規格外のものや間引き野菜について、ゲストとのコミュニケーションを通じて、小浜の食文化がさらに発展していく可能性を感じさせる場面もありました。



小浜らしい食とは?

小浜の食を語る上で、発酵は欠かせません。旧田烏小学校を発酵蔵として活用し、鯖のへしこを作る「民宿かどの」の角野高志さん。「昔ながらの塩と糠、とうがらしのみで漬けてます」とご紹介いただいたへしこ樽からは、深いコクを感じる甘い香り。素材以外の雑味を極力なくすよう、樽一つ一つがビニール袋で守られています。黄金色の鯖のへしこと、そのへしこにもう一手間加えて作られる鯖のなれずしを試食。口にした瞬間「これはすごい!」と、ゲストも唸る滋味でした。


見学の締めくくりは、日本の食文化の一つであり小浜を代表する産業である塗箸と、小浜の発展を支えた北前船を学ぶことのできる「GOSHOEN・みんなのミュージアム」へ。
そして夜には、ツアーで訪問した小浜の食の現場を担う方々を中心に招いた「ディスカバーナイト」を開催。テーマは「地場野菜・魚の熟成・発酵技術を用いた料理」。シェフにはこのテーマに沿って、地元食材を生かした料理を創作していただきました。その内容は以下の通りです。もちろん、食事に使う箸は伝統的な若狭塗箸。
1. 熟成・若狭まはたの炙り(蜂谷シェフ)
• 下亟さんの若狭まはた×Beeオリジナル熟成
2. 若狭小浜小鯛ささ漬シュー2種(蜂谷シェフ)
• 上杉商店の小鯛ささ漬×パティスリーカシュカシュのオリジナルシュー、赤井商店の甘とうと梨
3. 鯖のへしことドライトマトの棒鮨(安田さん)
• マツ勘の松本さんが羽釜で炊いたひまわり米&とば屋酢の酢飯、かどのさんのへしことドライトマトを赤井商店のまくわ瓜や奥井さんの紫蘇の実、後藤さんのパパイヤで巻き、柑なんばととば屋酢のお酢かすを添えたもの
4. 夏野菜の雲城水と熊川葛がけサラダ(原川シェフ)
• 奥井さんのオクラを雲城水で茹で、赤井商店のとうもろこし&きゅうり、伊勢屋の熊川葛
5. ゼブラ茄子のフリット、奥井さんのピーマン味噌(原川シェフ)
• 後藤さんのゼブラ茄子の天ぷら(小浜産米粉)、奥井さんの自家製ピーマン味噌



料理の提供時、シェフたちは創作の背景について語り、「今年の酷暑で生育が難しく見た目があまり良くならなかったと聞いたので、その野菜を使いたかった」「パパイヤを作っているけれど、消費者の方があまり使ってくれないと言うことで考えてみました」「醤油干しが有名ということで、野菜と合わせたらどうかと思って」など、それぞれの思いが共有されました。その日出会った生産者や現場から感じたことを料理として表現。その証拠に、テーブルに置いてあったメニューに書かれている料理名と同じものは、何もありませんでした。
料理が出てくるたびに各テーブルからは歓声にも似た驚きの声。まさに小浜の新たな食の可能性をみんなで発見し、楽しむ夜となりました。

また、ゲストだけではなく地元の招待客からも一人一人言葉をいただきました。
「普段はなかなか話す機会がない同じ市内で切磋する食に関わる人たちと交流できて良かった。こういった機会を設けることができる土地で仕事ができることを誇りにして、明るい未来を築いていけるよう、これからも頑張っていきたい」
小浜には、優れた食文化に取り組む方がたくさんいます。もしかしたら、もっとお互いを知ることで新たな世界を切り開くことができるかもしれない。そう思わざるを得ない言葉の数々でした。


最後にゲストから「そのままでいてください」という言葉をいただくことができました。それは、間違いなく小浜の持つ豊かさと奥深さへの賛辞であり、激励でもあると思います。「そのまま」を続けるためには、変化を恐れず、新しい時代に向き合うことが必要。「今は、料理をジャンルで選ぶのではなく、◯◯さんの料理を食べに行こう」というお客さんが増えているというお話もお聞きしました。
古来から続く「お水送り」のように、小浜の人々が誇りとする核を大切にしながらも変わり続けること。きっと、それがオリジナリティとなり、誰もが訪れたくなる小浜に繋がるのではないでしょうか。このツアーでは、出会ったものをどう生かすか、新たな視点を絶えず持つことの大切さと、小浜が持つ多様な可能性を再認識することができました。
この日の様子は、動画にまとめていますので、ぜひご覧ください!
ゲストの皆さま、そしてこの度のイベントにご協力いただきました小浜に暮らす皆さま、本当にありがとうございました。お忙しい中でのご協力に、心より感謝申し上げます!

食を旅するおいしいOBAMA2024 訪問先
2024.09.26
神宮寺
伊勢屋
雲城水・津島名水
若狭ふぐの宿 下亟2024.09.27
若狭ふぐの宿 下亟の若狭ふぐ・若狭マハタ養殖場
福井県漁連 小浜支所
小浜市総合卸売市場
赤井商店
若狭小浜お魚センター
とば屋酢
上杉商店
arcobaleno
奥井荘一郎さんの畑
塩瀬農園
民宿かどの
GOSHOEN
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