7月17日(金)、18日(土)に“NEST INN OBAMA”と名のつくイベント『NEST INN OBAMA SUNSET DINER』が開催された。
このイベントは、小浜市在住の4名の若手料理人が集まり、小浜の食材を見つめ直した特別なコース料理から、“小浜の食”を再発見しようというもの。
わたしは、UMIHICOとしてイベントのアートディレクションや運営などをサポートさせてもらったので、参加者としてレポートしたいと思う。
みなさんは、“小浜の食”と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。鯖、へしこ、なれずし、若狭小浜小鯛笹漬け、若狭ガレイ、小浜を紹介する冊子などでは、だいたいこのような海産物を使ったものが紹介されている。
古来から朝廷の食を支えた「御食国(みけつくに)」のひとつであり、江戸時代から近代にかけては京都へ若狭湾で捕れた海産物を届けた「鯖街道」と呼ばれる食文化往来の起点。食に関わる歴史が小浜にはたくさんあることから、小浜は「食のまち」と呼ばれている。このイベントは、「食のまち」は歴史的な過去の遺産ではなく、現在進行形であることを表現する場でもある。
「チーズ工房 LA VERITA」の杉崎由浩さんの呼びかけで、「すし処 鮨富」の島川陽平さん、老舗和菓子屋「 伊勢屋 」の上田浩人さん、小浜で開業準備中のパティシエ山崎康平さんという全くジャンルの異なる料理人が集まった。
「小浜にはね、たくさんの生産者がいるの。海の幸だけではなくて、農産物の良さも知ってもらいたい」と、発起人である杉崎由浩さんは、常々口にしていた。
料理人たちは昼食と夕食の営業時間の合間を縫って、何度も集まりながらイベントに出すコース料理の内容を決めていった。どんな食材を使って、どの順番で、ジャンルが異なる料理をどう組み合わせることが最もお客様に楽しんでもらえるのか。料理人の意見は良くも悪くもコロコロ変わる。それは、自分自身のベストが日々進化するからだ。豊富な地場の食材があり、優れた料理人が切磋琢磨する。小浜でしかできない新しいイベントが生まれる予感がした。
こういったイベントは、収益が目的にはならない。しかも、コロナウイルス感染症の影響で、飲食店が大きなダメージを受けているこのタイミング。ただでさえ厳しい状況の中、普段とは違うことに注力することの厳しさは想像に難くない。しかも、料理人ではないわたしは「いつもとは違うチャレンジをしてください」と、発破をかける。
梅雨明けしているのでは?と決めたイベントの開催日は、梅雨の真っ只中となった。しかし、イベント前々日、奇跡的に天気予報は曇り。夕陽を楽しむことはできなそうだが、開催の連絡をお客様へ入れた。
初日、準備開始の14時の段階では曇り。テーブルを運び、テーブルセッティングをした途端、突然の雨。スマホのアプリでは、雨雲はないはず。しかし、雨は上がらない。料理人たちは外の状況は見えず料理を進めている。本当に開催できるのか。開催するかどうか相談しに行こうとした開場の30分前に雨は上がった。
いよいよ料理がスタート。すると、また雨が降ってきた。せっかくの料理が雨に濡れてしまう。
「もう、帰る!」と、お客様に怒られるのではないかと冷や冷やしたその時、お客様が自然とテーブルに傘をさしてお食事を始めた。向かい合わせでひとつの傘を二人でさしたり、隣の人同士でさし合ったり。見たことのない温かな光景が目の前に広がった。
今回のお客様は、ほとんどが小浜市在住の方。それなりの金額をいただいたイベントで雨。しかも、料理や飲み物に雨が入ってしまった。それなのに、誰一人としてクレームを言うことなく、むしろ、その状況を楽しんでくれたのだ。小浜の食の素晴らしさを再発見するイベントだったが、わたしは、小浜の人の器の大きさと心の豊かさも再発見してしまった。
ただ、お客様が傘をさしてまで楽しんでくれたのは、料理人たちの作り上げた素晴らしい料理があったからに他ならない。小浜で収穫された野菜の前菜や、小浜の海産物を味わってもらったメイン料理。味はもちろん、今年中止となってしまった花火をあしらった彩りの和菓子や、香りを楽しんでもらった洋菓子。どれも、この日だけしか味わうことのできない新しい“小浜の食”だった。
イベントで最も印象に残ったのは、各テーブルで料理人たちがお客様と楽しそうに談笑していたこと。
お客となるわたしたちは、普段料理人と直接話しをすることはなかなかない。お寿司はカウンターがあるが、ほとんどの場合料理人は厨房にいる。
「おふくろの味」という言葉があるように、信頼している人の作ってくれた料理は何よりも美味しい。小浜という食材豊かなまちで、どこのお店に行っても知っている人が料理をしてくれるようになったら、最高じゃないだろうか。
こういったイベントは、正直言って大変だ。今回は、企画から運営まで全て民間で実施したこともあり、予算や労力など最小限で最大限の試みとなった。しかし、有志だけで実施したことがお客様の満足につながった。先に、収益が目的にはならないと書いたが、まさにその通りで、チームが目先ではなく、同じ目標(ヴィジョン)を目指しているかどうかが一番大切。
大変な分だけ、普段では得ることができないご褒美をもらうことができる。きっと、この日に出会ったお客様は、各料理人のお店に訪れてくれるだろう。一度ではなく、継続的に。
わたしは、このイベントを通して、料理人たちのお店に食べに行くことが前よりもずっと楽しみになった。そして、前より料理が美味しく感じる。
まだ生まれたばかりの小浜に巣まう料理人に出会う『NEST INN OBAMA SUNSET DINER』。“小浜の食”をもっと楽しく豊かにする可能性が溢れるこのイベント。これからの展開が楽しみだ。
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