角野さんのへしこづくり

角野さんは廃校となった田烏小学校を利用してへしこをつけている。小浜に住んでいれば自然と口にする機会のあるへしこ。その作り方を見せてもらうのは、今回が初めてであった。しかし、校舎の2階にあがるとなんだか懐かしい、ぬかの香りが漂ってきた。実家のつけもん小屋とよばれていた場所の香りだった。もしかしたら祖母も昔へしこを家で漬けていたのかもしれない。

奥の部屋にいくと夏の日差しの中で、へしこが暑い夏を越している最中だった。部屋の1/3程に並べられた樽にはビニール袋がかぶせられており、樽それぞれの表面に発酵した何かが浮いていて、いかにも熟成中という感じだった。それにしても暑い。こんな暑い部屋の中で発酵食品を作っても大丈夫なのか??という感じだった。

「へしこは暑ければ暑いほどうまみが強くなるんです。」

汗をぬぐいながら角野さんが説明してくれた。

「使うのは、ぬか、塩、唐辛子だけ。アミノ酸を使えば3か月ほどで、味がつくけどそれは、色も白っぽいし、本物のへしこじゃないんです。」

速成でつくられる安価なへしこは確かにうまみ成分であるアミノ酸が添加されているものがすくなくない。角野さんのへしこづくりは昔ながらのシンプルな材料で鯖自身が強いうまみに変化するためにじっくりと暑い夏を越さなければならないという。
そして、そのうまみが気温の落ち着く冬にじっくりと身全体になじんでいくことで、最終的においしいへしこに仕上がっていくのだそうだ。しかしうまく漬かったかどうかは、実際に一年後に上げてみるまでわからないという。つまり角野さんのへしこづくりはシンプルながらもじっくりと待つという根気のいる作業なんだなぁと感じた。
刺身・炙り、なれずしの順に味わった。実は角野さんのへしこを食べるのは二度目であったが、熟成の重みを知ってから味わうへしこはまた一味違った。シンプルな材料からゆっくりと時間をかけて生み出される味わいは奥行があり、一言で表すのは難しい。塩気の中にも滋味あふれるとても豊かな味わいだ。日本酒とともにちびちび食べたい。一方でごはんと一緒に口いっぱいに頬張りたい。なんとも不思議な食べ物だ。

角野さんはへしこを漬け初めて今年で7年目。今まで100%満足いくものは1樽だけだそうだ。毎年ぬかの量や、原料のサバを厳選しながら、試行錯誤を重ねあの味の再現を目指しているそうだ。漬け方は感覚的なもので、今後継承していくのはなかなか難しいのではないですか?と尋ねると、

「(へしこを漬ける)その人その人のやり方でいいと思います。僕がつくりたいのは僕がおいしいと思うへしこ。」優しくどっしり構える風貌そのものが、角野さんのへしこづくりにあらわれているなぁと感じた。
ゆっくりと時の流れる田烏で熟成される昔ながらのほんもののへしこ。へしこを食べた事のある方もない方もぜひ一度、角野さんのへしこをお試し頂きたい。

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