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2025年の春を贈る「お水送り」

「お水送り」の3月2日は、必ず雨や雪が降り、地面は濡れている。
前の週まで寒波で雪が降り、今年は雪化粧された舞台で開催された。西暦700年代からはじまり、もうすぐ1300年。

「お水送り」5日前の若狭神宮寺。特別に拝観させていただいた境内は一面の雪景色。地元の方々は、当日までに雪が溶けるか気を配っていた。

「お水送り」は、奈良・東大寺二月堂で行われる修二会に由来し、若狭で執り行われる神事。伝承によれば、かつて諸国の神々が修二会に集まる際、若狭の遠敷大明神は漁に夢中になり、遅れてしまった。しかし、修二会の行法の素晴らしさに感動し、その思いを二月堂の本尊に伝えるため、若狭の聖水を献じることを約束。すると、大明神の神通力により、二月堂の大岩から白と黒の鵜が飛び立ち、若狭の根来から地下を通じて聖水が湧き出したと伝えられている。この伝承に基づき、現在も毎年3月2日、若狭の「鵜の瀬」から奈良の「若狭井」へと聖なる水を送る「お水送り」の神事が執り行われている。

私が初めて参加したのは2020年。そして翌年の2021年はコロナ禍で関係者のみの開催となった。今年は、日曜日の開催となったこともあり、たくさんの観光の方が来て、神宮寺の境内は人でいっぱいになった。まるで劇場のような神事。実際には朝の山八神事もあるが、神宮寺の修二会は山伏の法螺貝の音から始まり、静寂に堂内の法要音が響くと、小さな火が炎となって火天と共に登場する。

堂内から現れた達陀の炎が、真っ暗な境内を照らす。
立ち昇る炎を見つめる人々。今年の境内は、多くの参拝者で満ちていた

今年は、撮影取材の予定だったが、急遽中松明を担ぐこととなった。中松明は一般の団体が奉納することができる。地元の小浜市立小浜美郷小学校や遠敷地区区長会、御食国若狭倶楽部だけでなく、滋賀県の江州木之本観音や東京埼玉弁護士会など日本各地から奉納されていた。

松明には、担ぎ手や団体の願いが込められ、炎とともに奉納される。

この中松明はもちろん、大松明や一般の方が手にする小松明も、すべて地元有志の方々が毎年手作りをしている。神宮寺の隣にある作業小屋に伺うと、足元には青々とした香りを放つ葉をつけた、たくさんの檜の枝。縦に割った立派な竹に枝や葉っぱが詰められ、大松明を作成されていた。
「お水送りの当日が近づくと、2週間前くらいから毎日松明を作ったり、準備にかかりきりです。この時期は、仕事の依頼が来ても断ってしまうほど(笑)」と、作業について案内してくれたのは、いつも「お水送り」当日だけではなく、準備の様子などもSNSで発信されている赤崎弘明さん。

大松明の制作が進む作業小屋。毎年のお水送りに向け、材料や道具が所狭しと並んでいる。真ん中に写るのが赤崎弘明さん。

「松明は、鵜の瀬の大護摩まで火を保たねばなりません。そのための芯は、荒縄を溶かした蝋の中に漬け込んで、固まらないうちに芯材に巻き付けるんです。それがまた、熱いんですよ(笑)。でも、このやり方はずっと昔から変えていないそうです」作り方は、口伝だったり工夫しながら軽量化をしてみたり、伝統ある神事とは言え、試行錯誤の繰り返しだそう。作業は3名程度で行うことが多いとのことで、「お手伝いはいつでも歓迎!」と言われた。大松明や中松明、小松明も合わせて千本近くの松明を全て手作業で作られているのだから驚きだ。

丹念に巻かれた松明の芯。このひと手間が、幻想的な光景を生み出す。

毎年、寒い夜に行われる「お水送り」。大護摩で立ち昇る炎の熱さと匂いを感じ、鵜の瀬の川の音に包まれると、次第に対岸で行われる異世界のような光景に引き込まれる。そして送水神事を見届けると、不思議と心が春へと向かっていく。この思いと感動は、初めて観たときから変わらない。地元の方々が丁寧に守り、伝えてきた「お水送り」。自分たちの暮らすまちに、こんなにも誇らしい神事があることが嬉しい。

観るだけではなく、参加できることも「お水送り」の素晴らしいところのひとつ。

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堀越 一孝

堀越 一孝

フォトグラファー。デザイン事務所UMIHICOの代表。

1982年神奈川県川崎市出身、小浜市在住。 小浜の伝統産業である塗箸の老舗「株式会社マツ勘」で商品企画や広報を行いながら、デザイン事務所UMIHICOの代表をしています。 本職は、フォトグラファー。2014年より写真でまちを元気にする新しい写真の方法『ローカルフォト』を核としたプロジェクトで日本各地をぶらぶらしています。

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