新型コロナウィルス感染症の影響で小浜市内の祭など、催しが次々と中止になり楽しみが減って寂しいという人もいるだろう。そんな中「周りの人たちが喜ぶことをしたい」と手探りではじまった取組みがある。
7月18日(日)小浜市内の店舗が連携して開催した『MATSURIっぽいやつ』というイベントだ。
イベントの主催者は小浜駅前商店街にある飲食店「BISTRO MOUTON」と小浜市新平野に事業所を置く「いろは出版」。BISTRO MOUTONは小浜市出身の料理人・濱坂卓弥さんが2019年にオープンさせたフレンチ・イタリアンの料理店で、いろは出版は小浜市内出身の詩人「きむ」さんが代表を務める出版社。
イベント当日BISTRO MOUTONでは店の看板メニューであるピザをテイクアウト限定で販売。また、同店内でいろは出版の書籍・文具類の販売に加え、プロのカメラマンに撮影してもらってオリジナルのポストカードが作れるイベントブースも設置。テイクアウトしたピザは熱々のうちに食べてもらえるよう、まちの駅の広場テラス席や駅内のフードコートに持ち込んで食べることができるようにした。新型コロナウィルス感染症の影響で外食することが憚られているが、広場のテラス席などで密を避けながら外での食事を楽しんでもらおうという取り組みだ。
まちの駅内にある食料品・雑貨のお店「TEtoKI」、同施設でグルテンフリーのスイーツなどを販売する「Cafe Seasons」の2店舗もイベントに協力し、TEtoKIからはオーガニックのドリンクを、Cafe Seasonsからは乳・小麦・卵製品を使わないティラミスをコラボ商品として販売した。
発起人である濱坂さんにイベント開催の理由を伺うと、きっかけは新型コロナウィルス感染症の影響で、行きつけのカラオケスナックが経営危機に瀕してしまったことにあるのだそう。
濱坂さんはカラオケスナックで居合わせた常連客から人生話を聞いたり、その人たちが歌う人情味溢れる歌を聞くのが好きだった。新型コロナウィルス感染症で店に集い歌う機会が減少し、彼らの楽しみが奪われてしまっている姿を見て自分に何かできないかと考えた。
目標があると練習するのも楽しみになると考えた濱坂さんは人前で自分の歌を発表する「のど自慢大会」を企画し、開催したいと思うようになった。音楽と食べ物は世代を超えて楽しめるもの。大会はまちの駅で行い、自分たちや他の飲食店がフードを販売したら盛り上がるのではないかとイメージを膨らませた。
しかし、自分はイベントを企画したこともないし、ノウハウもない。
友人であるいろは出版の高田昂典(たかのり)さんに相談したところ、「まずは小さく、自分たちだけでイベントをやってみないか」と提案された。
祭も花火大会も中止となる中で、祭特有の非日常感をテーマにイベント名を「MATSURIっぽいやつ」とした。「っぽいやつ」とあえて語尾をゆるくしたのには、堅苦しさを感じさせない、気軽に来てもらえるイベントにしたかったから。のど自慢大会をまちの駅で行うことを想定して、同施設内のTEtoKIやCafe Seasonsにも声をかけたそうだ。
イベント当日は小さな子どもを連れた家族層が目立った。ほとんどがSNSを見て来店したという。BISTRO MOUTONの普段の営業時間は17:30〜23:00と夜のみ。子どもを連れてピザを買いに来ていたお母さんに話を聞くと「夜に店に来るのは難しいので、日中にここのピザを食べられる機会があってありがたい」と喜んでいた。
また、Cafe Seasonsの限定メニュー目当てで来ている客も多く、まちの駅でスイーツを買い、BISTRO MOUTONまで商店街を歩いてピザを買いに行くという流れもあった。
今回初めての試みだったが、イベントに向けてスタッフが団結していく姿を目の当たりにし、そこに面白みを感じたという濱坂さん。今後のイベントに対する熱量も増したという。
「自分たちが小さいMATSURIを繰り返したら、それを見て出店したいっていう人が出てくるかもしれない」と希望を語る。言葉で説明するのではなく、まず行動で伝えようという姿勢は「ちょっと口下手」だという濱坂さんらしさだろうか。
小さな練習を重ねたら、ゆくゆくは思い描く「のど自慢大会」も。人生の先輩たちの歌を聞いたり、反対に若い人の歌を先輩たちが聞いて、刺激しあい、学び合い、語り合うような大会にしたいのだそう。
未経験のことを試すのはとても勇気が必要。だからこそ身近な人たちとまず実践し、手の届く規模で思いを具現化する。そうやって小さな実践を重ねることが、欲しい未来への1歩になるんじゃないだろうか。
小浜ではじまった小さな実験のような“MATSURIっぽいやつ”。ぜひ皆さんで見守り、参加し、楽しんでいきたいですね!ちなみに次のイベントは涼しくなってきた秋ごろを予定しているそうです。
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