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『好きなことが、学びになるまち。』失敗できる環境が、まちを発光させる。〜探究のまち小浜が目指す教育とは? vol.02〜

福井県小浜市では、2026年4月から放送中のフジテレビ系月9ドラマ「サバ缶、宇宙へ行く」の原作にもなった、「さばの缶づめ、宇宙へいく」に代表されるように、地域を舞台とした探究的な学習や地域連携型の教育活動が長年にわたり行われてきた。
vol.01では、小浜の探究がなぜ「特別」なのかを、地域に根づく文化と3S学習の歴史から探った。今回は、その探究が育てる「人の力」に目を向ける。挑戦すること、失敗できること、ワクワクを手放さないこと。小坂教育長が歩んできた道と共に、小浜に暮らすことの豊かさを探ってみた。

子どもたちが選んだ「挑戦すること」という言葉

「こども未来会議」という取り組みをご存知だろうか。小浜市の5年間の教育目標を子どもたち自身も参加して考える開かれた場で、小中高・大学生から保護者までが集まり議論する。
その場で「幸せになるために必要なことは何か」と問われた子どもたちが、最も多く答えたのが「挑戦すること」だった。

こども未来会議の様子。

「大人だと健康とか、美味しいものを食べるとかになっちゃうと思うのですが、子どもたちは『挑戦すること』を選びました。未来を向いてるんです。そして、挑戦するための具体じゃなくて、常にそういうマインドでいたい。そのために失敗できる環境を作ってほしい。子どもたちがそう言ったんですよ」

この言葉は、小浜の探究教育が大切にしてきたものを、そのまま映し出している。子どもたちは、「挑戦と失敗の文化」を自分たちの価値観として内面化していた。では、失敗できる環境とはどのようなものなのか。「失敗できる環境」と聞くと、ぬるい環境のことを想像されるかもしれない。しかし、小坂教育長の語る失敗とは、そのイメージとは異なるものだった。

小浜が目指す「失敗できる環境」とはどんなものかなのか?について説明してくれた小坂康之教育長。

「失敗しても、なんでそうなったのかを責めるのではなく、どうしたの?って寄り添ってくれるような環境。それが失敗できる環境です。もちろん、人の生死に関わるような極端なことは止めないといけない。でもある程度、失敗させることが大事で、挑戦しなくてもいい雰囲気も大事。選択肢があることが大切なんです」

小浜を代表する発酵文化である鯖のへしこが「失敗しながら伝わってきた」ように、学びも失敗の積み重ねの上にある。失敗を責めるのではなく「どうしたの?」と寄り添える仲間や大人がいること。それが、探究の根っこを育てる土壌となる。そして、これは学校だけの話ではない。職場でも、家庭でも、まちの日常の中でそういう空気が広がることで、探究は文化となる。

ワンダーが、探究の入口に

小坂教育長が繰り返し語るキーワードがある。「ワンダー(Wonder)」驚き・不思議・ワクワク感、その人固有の好奇心の源泉。

「探究って、自分自身のワクワクと、地域や事象とをつなげていくことなんです。サバ缶を宇宙に持っていったらどうなるかと考えてワクワクした子もいるし、単純に食べるのが好きでワクワクした子もいる。ワクワクが学びの入口です」

大事なのは、そのワンダーを「いいね」と拾ってあげること。その一言で膨らむ子もいる一方、「何それ」と言われ縮んでしまう子もいる。よい対話の環境がワンダーを育てもするし、潰しもする。小浜の中学校では、「化粧品を開発したい」という生徒のワンダーから米ぬかの研究が始まり、猫が好きな子は猫型クッキーの活動につながる。その課題設定の自由さは、全国の探究学習では珍しいことだと小坂教育長は言う。

小浜中学校での探究学習の様子。

「一緒に学ぶ」教員であること

3S学習で教師に求められるのは「答えを教えること」ではなく、「なぜそう思うの?」「具体的に言うとどうなの?」「逆の場合は?」と問いを返す「切り返し」のスキル。子どもの思考を引き出し、対話をより深く、より広くしていく。

「全員がいきなりできるわけではないんですよ。普通の教員は、教えたいことがたくさんありますので、まずこれについてやっていこうかとなってしまいます。でも3S学習の場合は逆で、子どもから湧いてきた問いを使って、みんなでセッションすることが必要なんです」

「答えを知っている存在」として立つことに慣れた教師が、「一緒に学ぶ存在」として問いを共有する。その転換こそが、全国の探究学習が最も難しいと感じるところの一つだろう。ハワイで学んだp4cの問い返し技法が、小浜の「切り返し」と同じだと気づいた時、小坂教育長の中で改めて確信が生まれたという。

少子高齢化の中で、小浜の探究を支えてきた地域の事業者も少しずつ数を減らしている。子どもたちが地域の専門家と直接触れる機会が減ることは、探究学習の質にも関わる。しかし小坂教育長は、そこにDX(デジタルトランスフォーメーション)の可能性を見る。小浜は福井県内でもDXが最も進んだ市の一つで、タブレット活用や宿題のデジタル提出など、デジタルを日常に取り込んでいる。

生徒それぞれが日常的にタブレットに触れ、DXを当たり前の環境としている。

「地域の事業者が減っても、その専門を知っている人はブラジルにいるかもしれない。DXを使えば世界中とつながれる。小浜と地域の間で生まれるワクワクもある」

一方で、子どもたちから「体験学習をもっと増やしてほしい」「隣に生きた大人がいるのに、なぜデジタルで学ぶの?」という声が上がった時、豊かで多様な視点を持つ子どもたちが育っていると感じたそうだ。ツールを使うことを目的とせず、使い方を問い直せる子どもたちは、まさに探究者の姿そのもの。

好きなことから始まった教育長の「探究」

小坂教育長は神奈川県の出身。大学浪人時代に、今の考え方につながる思いをめぐらせた時期があったという。

「自分自身と向き合う時間を持てたことで、『自分の本当に好きなことは何か』を問い直したんです。そうしたら、『海が好きな自分』という原点が見えてきた。だから東京水産大学に行って、ずっと海のことをやってきました。好きなことをベースにすると、こんなにも自分ってあるんだなと。好きなことから始めることの力って、本当にあると実感しました」

自らの過去が“探究”の原点に。

教員になったのは、ダイビングを仕事にしようとした時の「インストラクターか、水産の教員か」という選択肢からだった。初任校の福井県立小浜水産高校で出会ったのは、学業に失望した生徒たちだった。彼らが「学びたい」と思える瞬間を作ることに、ずっとこだわり続けてきた。その実践が行き着いたのは「学びに向かう力」という一点だ。どんな知識も技術も、学ぼうとする心がなければ入ってこない。自分自身がそうだったように。その心に火をつけるのが、ワンダーであり、対話であり、失敗を許す環境だと、教育長は語ってくれた。

「教育が自然とまちの文化や日常生活と融合して、好奇心旺盛で地域に根ざした市民が育つ。小浜をこれから先もそういうまちにしていきたい。世界に誇れるような素晴らしいことをしているのに、外ではあまり知られていない。それは、鯖のへしこと一緒で、もっと知られることでまちへの見方が変わるかもしれない。だからこそ、自信を持ってどんどん発信して、光り輝くまちになるといい」

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