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『地域と灯す、西津小学校の漁り火。』失敗できる環境が、まちを発光させる。〜探究のまち小浜が目指す教育とは? vol.03〜

西津のまちの漁り火(いさりび)は、海の上だけではない。
西津小学校では、総合的な学習の時間を「イサリビ」と呼ぶ。海沿いに暮らす人々が、暗い夜の海に光を灯して魚を引き寄せるように、子どもたちの好奇心を引き寄せ、地域への愛着をゆっくりと育てていく。そんな思いを、この名前から感じさせる。
今回話を聞いたのは、西津小学校の探究活動を担当する岸本光平先生。「これしたい!あれしたい!」という好奇心あふれる子どもたちの声を起点に、まちを巻き込んだ学びを実践している。

岸本先生の身につけるTシャツにも“ISARI BE(漁り火)”の文字が。

地域を表す学年ごとに異なるテーマ

西津小学校の探究では、地域の宝物を探る1,2年生の「まちたんけん」を除き、学年ごとのテーマがある。3年生は「祭り」、4年生は「綱女」、5年生は「海」、6年生は「塗箸」。
「テーマの枠はあるんですけど、その中で何をするかは子どもたちが考えます。枠があることで、地域の魅力を小学校のうちに知ることができるし、中学校での活動の糧にもなります。まちに対する引き出しをいっぱい持って、中学校に上がってほしいんです」

テーマを並べると、西津のまちそのものが見えてくる。地蔵盆でにぎわう路地、綱女の歴史、学校から歩いてすぐの若狭湾、地域の基幹産業である塗箸。学年が上がるごとに、子どもたちは西津のまちを学んでいく。
3年生は西津コミュニティセンターが毎年主催している「お地蔵さんぽ」でダンスを披露し、4年生は「綱女顕彰祭」に参加し、綱女の墓の清掃活動にも取り組む。5年生は若狭高校の「雲龍丸」に乗って沖に出たり、田烏の少年自然の家でカッター体験をすることで、海ごみなどについて考える。6年生は塗箸と北前船の歴史を学び、護松園でその成果を発表する。
毎年共通したテーマを持ち、先輩の活動を下級生が見ることについて、岸本先生はこう話す。「みんなの成果を共有する機会があるので、5年生の時に海の学習をして、じゃあ自分が6年になったらどんなことしようかなって、なんとなくイメージができるんですよね。テーマが見えているから、次の年のことをワクワクして待つことができるんです」

「誰かを幸せにすること」が、探究の核心

岸本先生が西津小に赴任してきたとき、探究について学ぼうと若狭高校を訪ね、現小浜市教育長の小坂先生と当時の先生に対し、素直に「探究って、何ですか」と聞いてみたそうだ。
「そこで言われたのが、『誰かを幸せにすること』って。それからずっと、毎年子どもたちにも、同じことを伝えています」
小学生にその問いを投げると、どんな答えが返ってくるのだろうか。岸本先生が担当となってから、特に印象的な活動を尋ねてみると、ある年の「塩づくり」について話してくれた。
「雲龍丸で沖に出ると、海の美しさに触れることで『環境を守りたい』という声が毎年多く上がります。でも、その年の5年生は少し違う方向へ進みました。『この海の恵みを、生かしたい』と、ある子が言い出したんです。そうしたら、他の子が『海水から塩をつくれないかな。美味しく食べたら、幸せになる!』。塩だけじゃなくて、その塩をアイスにまぶしたいとか、おにぎりにしたいとか、いきなりバーッと出てくるんですよ(笑)。海苔の代わりに西津の魚を巻いたらどうかって。小学生の発想がもう、すごくて」
塩づくりは実際に取り組まれ、出来上がった塩は「西津のPR」として大相撲福井巡業に提供することになった。「食べる」という子どもたちの当初の夢は、残念ながらこの時は、実現しなかった。海水から作った塩には衛生上のリスクが拭えないと保健所に指摘され、断念せざるを得なかった。
しかし、大相撲の土俵で、「西津小学校の小学生が作ったお塩です」というアナウンスとともに、力士がその塩を手いっぱいに取って撒いた姿をテレビで見た子どもたちは、「西津って全国に出た!」と、大喜びだったそうだ。

実際に2025年の大相撲福井巡業で横綱 大の里が西津小学校の塩を撒いた場面。

「今年の子どもたちも、塩をつくりたいって言ってくれています。失敗したことを次の子がが引き継いで、また挑む。それがいいんだと思います」

「いいね」の一言が、子どもを動かす

岸本先生が意識していることがある。それは、子どもたちから提案が出たとき、まず「いいね!」と言うこと。しかも、みんなに聞こえるように。
「一人の子の意見を、大きい声でいいねって言う。そうすると、言って大丈夫なんやなって、周りも思ってくれる。その空気が大事で。小学生って、その一言でめちゃくちゃ伸びるんですよ」
中学校で長く教えてきた岸本先生にとって、小学生の主体性の高さは新鮮だったそうだ。「あれしたい、これしたい」が止まらない。中学生は自分でブレーキをかけることがあるけれど、小学生には、そのブレーキがない。
「だから僕の役割は、提案をとにかくつなぐことだと思っていて。教員の枠に収めたら絶対あかんと。提案が来たら、まず放課後に頭を抱えて(笑)、でも実現できる方法を探します」

「ひげ、写さないでくださいね」と、教育計画を逆に持ったりとおちゃめな岸本先生。

その「頭を抱える」作業が、地域とのつながりを広げていく。塩づくりを学ぼうと市役所に相談し、商品開発を目指して地域の事業者に声をかける。もちろん、断られることもある。それでも諦めずにつながりを探し続けると、想像以上に協力してもらえることもある。
「最初の一歩目が怖いだけで、飛び込んでしまえば、みんな助けてくれる。それは本当に、やってみてわかりました」

シルバーカフェと、ふるさとカレンダー

西津ならではの仕組みが、もう一つある。西津コミュニティセンターで毎週水曜日に開かれている「シルバーカフェ」。地域の人たちが集まるこの場所に、全学年が年2回訪問する。
「今探究でこんなことをしているんですけど、他におすすめの場所ないですか?とか、こんな使い方できませんか?って相談もするし、勉強したことを発表する場にもなる。2月の学習発表会に向けたプレ発表会にもなっています。今では、向こうも待ってましたって感じで、すごく喜んでくれるんです」

西津コミュニティセンターの様子。

コミュニティセンター長の竹田茂芳さんは、子どもたちのどんな質問にも真摯に向き合ってくれるそうだ。地域みんなで小学校の探究を支えるという雰囲気が、ここには自然と根づいているとのこと。
また、年間活動の見える化ツールとして、「ふるさとカレンダー」も活用されている。探究の計画、進捗、関わる地域の人、教科との関連、SDGsの対応項目などが一枚のカレンダーにまとまっていて、子どもたちもいつでも確認できる。

「子どもたちがカレンダーを見ながら、ここまで進んだって確認できる。地域の人の名前も書いてあるから、この人がお世話になってくれているんやって実感できます。それが教室に貼ってあって、いつでも見ることができるんです」

100人が浜に集まった日

忘れられない活動として、もうひとつ岸本先生が話してくれたのは、2年前に海ごみをテーマに取り組んでいた5年生の活動から、思いがけない連鎖が生まれたことだった。
「同時期に小学校と同じように、浜で海ごみを拾う活動をしていたグループが中学校と高校にもあって、福井県立大学にもサークルがあったんです。それが分かって、学校長の理解もあり、先生同士でも一緒にやろうとなりました。小中高大と保護者や地域の方、全部で100人ぐらいが集まった浜でのごみ拾いイベントを開催したんです」

一人の小学5年生が「海をきれいにしたい」と思ったことで生まれた縦のつながり。それは大人たちが計画したものではなく、子どもの気持ちと、教員の一歩、地域の協力が重なって実現できたこと。
「あの100人は、嬉しかったですね。縦のつながりもそこで初めてできた気がしました」

子どものワクワクを、社会へつなぐ

「子どものワクワクを引き出し、積極的に取り組んでもらうことで、中学校や大人になった時に自分の意見を言える子、実現させる子になってほしいと思っています。地域の皆さんと対話する小学校での探究が、その礎になってくれるよう、私もできる限り協力していきたいです」

子どもたちは今年も、ユニークな発案を岸本先生に提案している。「魚うどんを宇宙に飛ばしたい!」。岸本先生は、またきっと放課後に頭を抱える。しかし、その実現への道を探し始めてくれる。
海が近く、祭りがあり、歴史と産業のあるこのまちで、子どもたちは「誰かを幸せにしたい」と思いながら地域を探究している。その学びを支える大人たちがいて、待ってくれている地域がある。西津の漁り火は、地域を明るく灯し続けていくだろう。

学校のすぐ裏に山もあり、目の前には海が広がる環境で、子どもたちは毎日まちと共に育まれている。

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