小浜中学校で「総合的な学習の時間」を担当する大岸寿成先生は、自分の興味関心と地域の魅力・課題を掛け合わせ、地域にいい顔を増やすことを目的とした探究活動「e顔探究」を担当している。
生徒一人ひとりの”好き”や”気になる”を起点に、地域を学習の場として広げていく。生徒の失敗も迷いも、もちろん成功も全部ひっくるめて学びにしていきたいという活動は、どのような思いで生まれ、進められているのだろうか。
生徒会の言葉から生まれた「e顔探究」

コロナ禍が明けはじめた頃、地域へ出ていく活動がようやく再開できるようになった。
「当時の生徒会長が、『浜中を元気にしたい、パワフルにしたい』と言ってくれたんです。自分たちだけが元気でも、地域として盛り上がりが足りない。みんなを巻き込んでいきたい、と。そこから『小浜をパワフルに』というテーマができました」
このテーマを、次の3年生が引き継ぎ、地域の企業・職業という視点が加わり、「地域の仕事を通じて小浜をパワフルに」という方向へ進化した。そのなかで生まれた言葉が、「e顔(=笑顔)」だったそうだ。
「e顔って、笑顔のことだけではなく、education(教育)やexcellent(優れた)などの意味も入っていて、小浜でいい顔をしている大人に会いにいく、自分たちもいい顔ができる活動をする。そういうイメージです」
縦割りで実施される中学の探究活動
2025年度から、小浜中学校の探究活動は学年縦割りの体制に移行した。1年生から3年生が混じってグループをつくり、1年間を通じて探究を実施する。
「3年生だけでやっていると、時間的な制約があってなかなか深まらないんです。もっと探究の時間をやらせてあげたいなという思いがあって。それに小学校の段階でも探究活動をやってきてくれているので、1年生からでも全然できると考えて、縦割り体制としました」
縦割りを実現させる仕組みは、まず生徒一人ひとりが「私はこういうことに興味があって、こんなことをしてみたい」という企画書を書く。総合の学習担当の教員がそれを集めて、似た関心を持つ生徒同士をグルーピングしていく。
「やってみると、やっぱり合わないなっていうズレが出てくることもあります。本当はそこで枝分かれさせてあげたいんですけど、学校の枠の中ではそれが難しい。でも、それもその子の新しい気づきと経験だと思って、まずは1年間やってみようと、最初に伝えています。もちろん、不一致が起こらないように最初のグルーピングには細心の注意をしています」

縦割りの副産物もある。3年生が突然”先輩”として下級生と向き合う場面が生まれ、上級生の自覚を持つ。そして、1年生にとっては入学早々に異学年の友だちができる。そんなちょっとした変化が、学校に一体感をもたらせてくれるかもしれない。
探究の時間は、毎週金曜日の6時間目。毎週実施している。
「今年からようやく市内中学校の探究活動の時間が、同じ時間に揃ったんです。そうなると、他校とのコラボもしやすくなる。教育長ともよく話しているんですけど、学内だけのつながりに留まらず、縦や横、小浜市内のみんなで探究できることを目指しています」
この「縦横のつながり」への意識は、大岸先生の根っこにある問いから来ている。
「小学校でやってきたこと、中学でやること、高校でやること。それがそれぞれ分離しているイメージがあったんですよね。でも探究って、本来そういうものじゃない。人の生き方そのものだし、キャリアにもつながる。縦の時間軸だけじゃなくて、地域や他校を巻き込んだ横の幅も持たせていきたいんです」
幼保から大学まで、18年スパンの探究指針をつくろうという動きも市の中で始まっているそうだ。大岸先生が描く「縦と横」のビジョンは、少しずつ形になりつつある。
探究のはじまりと、教員の関わり方
「自分の興味のあること、好きなことを中心に」というのが、この探究の出発点。だから、テーマは予想外の方向へ広がっていく。
「去年は保育園・幼稚園に行って、子どもたちと一緒に遊んで、もっと喜んでもらうにはどうしたらいいかについて試行錯誤した子もいましたし、毎週調理室にこもってサバ味のグミを作っている子たちもいました。『先生、食べてみて!』って、僕を実験台にしながら(笑)」

若狭マラソンでは、鯖街道を広めたいと缶バッジを制作。地元食材を使ったお弁当をつくりたいと動き出した生徒は、教員を介してキッチンのある事業者につないでもらい、実際に販売するところまでこぎつけた。
「できるんやって思った瞬間の顔が、すごくいいんですよ。実現可能なんやってわかったときのあのワクワクがつくる生徒たちの表情は、本当にいつもe顔になるんです」
教員として、探究の場でどう関わるか。大岸先生が繰り返した言葉が三つある。
「否定しない、答えを用意しない、問い返す。それだけです。子どもたちにとって一番近くにいる大人は教員なので、そこが否定してしまうと、その先も閉じてしまいます」
教室を回りながら、ふと「最近何してるん?」と声をかける。「それ、面白そうやな。次何するん?」と続ける。指導というより、隣で伴走するような関わり方。
「僕も、引っ張っていけるほど探究してきたわけじゃないので。子どもたちの活動を見ていると、純粋にいいなって思うんですよね。サバグミなんて、僕には一生思いつかないですし。食いたいとも思わない(笑)。でも、なんかそういう世界を子どもたちが見せてくれるから、純粋に楽しいんです」

小浜だからできる、安心した探究
昨年の取り組みでは、地域の方々約20名が学校を訪れ、生徒たちにさまざまな話をしてくれた。
「思っていた以上に、みなさん協力してくれるんですよ。年度末の公開授業で、『来年も一緒にやるよ』って言ってくれる方もいて。すごくありがたいです」

活動の趣旨を丁寧に伝えると、地域の人たちは「もっと詳しく教えてほしい」と前のめりになってくれる。子どもたちにいっぱい還元してあげたいから、という気持ちの表れだと大岸先生は言う。都市部では、学校や公園で遊ぶ子どもたちの声に苦情が来るなど、地域で育てるという意識が希薄になる中、小浜の距離感は特別だ。
「当たり前のように海がすぐ近くにあって、山があって、川もある。歴史もあるし、地域に根ざした財産がいっぱいある。こういう場所だからこそ、小浜は子どもたちを安心して外に出すことができて、探究の材料がいっぱいある地域なんだと、確信しました」
普段はとても活発で野球部でもバリバリの子が「神社仏閣を広めたい」と言い出したこともあったそうだ。でも、よく考えてみれば不思議でも何でもない。その子の通学路には、神社があり、幼い頃から境内で遊んできたかもしれない。小浜らしさとは、そういう、暮らしの積み重ねから現れてくるものだ。
最後に、大岸先生の探究にかける思いを聞いた。
「小浜に帰ってくる、帰ってこないは置いといて、子どもたちには、自分の人生を楽しんでほしいと思っています。ある生徒にも言ったことなんですけど、人生はRPGだよって。ゲームのRPGはロールプレイングゲームだけれど、人生はReal Playing Game。現実を楽しんでプレイするゲームなんやって」

ゲームとして楽しめているうちは、失敗も次の一手になる。攻略法を自分で見つけていく力をつけることが、探究の先にある。
「自分探しは、すぐに結果が出るものじゃありません。私もまだ探し途中ですし(笑)一生続くものだと思っています。そこに、中学校で取り組んだ地域探究が少しでも役に立てたら嬉しいです」
小浜市全体を、探究の学校に。大岸先生の言葉からは、そんな思いが込められているように感じた。海と山と川に囲まれ、地域の大人が子どもたちの挑戦を温かく迎えてくれるこのまちで、子どもたちは今日も”いい顔”に出会い、”いい顔”になって育っていく。


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