かつての旅人のように、宿場町で心も体もゆっくりと休ませる。八百万の神がつくる熊川の美しい自然の恵みを感じてほしいと「八百熊川」と名づけられ古民家を活かした宿。運営するのは『株式会社デキタ』代表の時岡壮太さん。“文化資源をいかし、地域経済の循環をつくる”ことを掲げたプロジェクトは、熊川宿が取り組んできた保存のまちづくりを受け継ぎながら、新しい活用のあり方を開拓する。
-リノベーションのきっかけは?
学生時代に集落調査をした経験もあって、空き家の古民家で何かやりたいという思いはずっと持っていました。建築設計事務所として築地の仕事をしている時、食のまちづくりをやりたいと魚市場で話したら「食のまちと言ったら若狭でしょ」と言われたことが、ボディブローのように効いてきて、2018年に地元福井の仕事をしたいと帰ってきました。帰ってきてすぐに宿を作ろうと思ったのですが、外から関わるだけではきっと話もしてもらえないと思って、まず自社オフィスを作ることにしました。
-物件との出会い
東京の福井県人会で、若狭町から出向中だった職員に福井の物件について相談したら「すぐに町長に会わせるからプレゼンして!」と言われ、いきなりの町長プレゼン。そして、その場で「やらせてください!」と(笑)冷静になってから、菱屋(現デキタオフィス)は熊川の中でも村の顔のような名家。失敗したらどうしようかとドキドキしました(笑)
-改修はどのように実施しましたか?
菱屋は、総務省の「ローカル10,000プロジェクト」から補助を受けて、残りは自己資金。宿は文化庁の観光拠点整備事業から少し補助をしてもらっていますが、基本は自己資金です。設計を自社でやったり、DIYを駆使したり。地元の方と一緒に作ったりしています。
-大切にしていること
キャッシュポイントを確実につくりながら、戦略的な順序でリノベーションを進めていくこと。経営者である以上、スタッフの生活を第一に考えなくてはいけません。もちろん地域のことも重要ですが、毎月必要な額をしっかりと稼ぐ。そのためには宿だけを増やすという量的拡大を目指すべきではなくて、宿の閑散期に違う仕事をしたり、「八百熊川STORE」などのオンラインストアで販売する商品を地元事業者と一緒に考えたり、いくつかの事業を複合化させることで時代に左右されづらい安定的な事業展開を目指しています。
-未来
熊川宿が既に持っている価値をより多面的に表現する、まちの付加価値を生み出すまちづくりをしていきたいと思っています。山の資源を活用したトレイルルートやキャンプ場の開発。新たなお土産等を製造する食品加工工場の整備。デキタだけではできない街灯・誘導サインの整備など。若狭町と連携し、地域住民と民間事業者が一緒になって熊川宿の資源を活用する「熊川地区グランドデザイン」を実践していくことで、宿泊・物販・製造・体験といったさまざまな要素から活気ある熊川宿のエリアイメージを作り上げていきたいです。
宿の名物にもなりつつある地元婦人会の「おもてなしの会」による夕食や、これからできる加工所など、地元事業者といろいろなチャンネルでつながることができるのも、複合的な事業展開があってのこと。最近、やっと目指していたものが、少しづつ形になってきたような気がします。将来的に「意味があったね」と地域の方に言ってもらえるような活動を、これからも進めていきたいと思っています。
Information
WAKASA RENOVATION STANDARD
STANDARD-03 八百熊川
八百熊川は4棟の宿泊施設と1箇所のレセプション、食文化体験スペースからなる分散型宿泊施設。それぞれの施設には、若狭の食を身近に味わっていただけるよう、大きなキッチンを設け、お部屋で調理し食べていただくスタイルの夕食「若狭の海と山を味わう蒸し料理セット」や朝食「朝粥-熊川葛のあんかけ-」なども提供。
〒919-1532 福井県三方上中郡若狭町熊川30-6-1(受付場所)
MAIL info@yao-kumagawa.com
WEB https://yao-kumagawa.com
営業時間 15:00-18:00(受付)
定休日 なし
駐車場 あり
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