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まつる

『妖怪ってなんだろう?』〜小浜妖怪物語vol.1〜

「妖怪って本当にいるんですか?」

妖怪について研究していると、よくこう尋ねられます。結論から言えば、妖怪は「いません」。もっと言えば、実在するかどうかはそれほど重要ではありません。もし本当に実在してしまえば、生き物として分類され、いずれは動物園で飼育されてしまうでしょう。
しかし、妖怪を“文化”として見ると、その姿はたしかに「存在している」と言えるのです。文化とは少し難しい言葉ですが、ここでは「人々が暮らす中でつくり上げてきた思考や信仰、習慣、表現のすべて」と広く捉えておきましょう(注1)
この文化という尺度から見ると妖怪は、人々の暮らしや自然へのまなざし、恐れや願いといった感情や想像力から生まれた、文化的な存在だといえるのです(注2)

街を歩けば「文化としての妖怪」に出会えます。京都市・大将軍商店街「妖怪ストリート」にて

では、妖怪はどこに現れるのでしょうか。

文化としての妖怪が“人間がいるところならどこにでもいる”のだとすれば、全国どこでも出没しそうに思えます。しかし実際には、妖怪は特定の土地に想像されるという特徴があります。
日本民俗学の父・柳田國男は『妖怪談義』の中で、「幽霊は人に出て、妖怪は場所に出る」と述べました(注3)。つまり、幽霊は恨みをもつ人の前に現れるもので、言い換えれば“恨まれる側の心に取り憑く罪悪感のようなもの”。一方で妖怪は、人間の心の中だけではなく、私たちを取り巻く自然環境や土地といった外的な「場所」との関係の中で語られてきたものだというのです。

小浜にも妖怪っぽいものが!?マーメイドテラスの人魚像。妖怪は、その土地に残る伝承や記憶から生まれる存在です

古代には、妖怪の出没する場所が“法律で決められていた”時期すらあります。古代日本の法典『延喜式(えんぎしき)』には、追儺(ついな)と呼ばれる儀礼(節分の豆撒きの原型)に関する記述のなかで、鬼が住む場所として、陸奥(東北地方)、五島列島、土佐(高知県)、佐渡(佐渡ヶ島)などが挙げられています。これらは、当時の国家の支配が届きにくい最果て地の向こう側に、異界や妖怪の住む世界が想像されたのです(注4)
このように、妖怪は昔から「場所」と切り離せない存在であり、人と土地のつながりを映す鏡でもあったのです。

古代の日本では、佐渡ヶ島の向こうから妖怪がやって来ると想像されていました。曇天の日本海には、今もどこか「異界」の気配が…。新潟県長岡市寺泊から望む佐渡方面

この連載では、小浜市を中心とした若狭地方に伝わる妖怪たちと、彼らが姿を現す場所を紹介していきます。
妖怪は単なる昔話の登場人物ではありません。過去の人々の思いや感覚が土地に刻まれた痕跡そのものであり、過去に生きた人々から現代を生きる私たちへのメッセージでもあります。

妖怪をたどることは、私たち自身と、この土地を見つめ直すこと。
若狭に息づく“見えない存在”に触れる旅をお楽しみに!

参考文献
注1 E.B.タイラー、比屋根安定訳(1962)『原始文化』、誠信書房。
注2 小松和彦(2007)『妖怪学新考 妖怪からみる日本人の心』、洋泉社。
注3 柳田國男(1977[1956])『妖怪談義』、講談社。
注4 佐々木高弘(2014)『神話の風景』、古今書院。

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岡颯馬

岡颯馬

御食国若狭おばま食文化館の学芸員

1998年生、福井県小浜市出身。御食国若狭おばま食文化館の学芸員。 幼い頃から妖怪に魅了され、大学では妖怪文化の研究を行う。大学院進学以降は、アニメ・マンガなどのサブカルチャーや、近現代における観光と文化の関わりから鯖街道についても研究を進めている。 専門は文化地理学・日本民俗学。

  1. 『組屋六郎左衛門と疱瘡神』〜小浜妖怪物語vol.2〜

  2. 『妖怪ってなんだろう?』〜小浜妖怪物語vol.1〜

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