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【小浜古寺巡礼Vol.1】水を司る伝説の守護神に出逢えた「明通寺」

古くから、海外文化を都へ、そして都文化を全国へ中継してきた国際交流都市・小浜。
今や人口3万人を切る地方都市である小浜が、ほんの数百年前までは外国人や都の人が行き交い、今に例えるなら神戸や横浜のようなまちであったと誰が想像できるだろうか。
ただ、それを示す歴史や文化は市内全域で人々の生活に当たり前に根づき、大切に守り伝えられている。それを象徴的に示すものが、「海のある奈良」と例えられるように、美しい海と山の景観に擁かれた数多くの古刹であろう。海と都をつないだ小浜の魅力を探る。絶滅危惧種の山伏「若狭坊」が小浜の古刹(こさつ)をめぐる小浜巡礼のスタートです。

小浜市の東部、国道27号線の大興寺交差点を南に折れると、そこは松永地区。松永川沿いに広がる田園地帯の谷奥にひっそりと佇むのが国宝の「明通寺」である。

参道の階段を登り仁王像が守る門をくぐると、桧の皮で葺いた屋根が美しい国宝の本堂と三重塔が木立の間から目に飛び込んでくる。

「いまから約1200年前、社会の教科書にも出てくる坂上田村麻呂(さかのうえたむらまろ)公の創建になる寺院です」と、ご紹介いただいたのは副住職の中嶌一心(なかじま いっしん)さん。

坂上田村麻呂といえば平安時代の初めに征夷大将軍として蝦夷に出兵した武官である。その田村麻呂がなぜ小浜に寺院を創建したのだろうか。
寺伝によれば戦でなくなった方々の慰霊を弔うためとあるが、小浜である必要性は明確ではない。深まる謎をかかえ本堂に入ると御本尊の薬師如来像、そして左右には大きな仏像が威容を誇る。
普通の寺院では見ることのない珍しい仏像の取り合わせである。特に目につくのが向かって左の深沙大将(じんじゃたいしょう)像。怒りの形相で頭にドクロをのせ、左手には蛇を握る。「全国的にみても珍しい仏像で、西遊記の沙悟浄がモデルとなっています。最近の子どもたちには西遊記と紹介してもピンとこないみたいですが・・・。」

子どもたちが分からないというお話にショックを受けながらも、絵本・小説・テレビドラマと身近に西遊記に接してきた若狭坊は、筋斗雲に乗るがごとく胸が踊る。その高鳴りをおさえながらさらに観察すると、異様な姿と相反して腰に彫られた帯留めには子どもの笑顔が見える。

「砂漠を旅する三蔵法師をお守りするために水と疫病退散を司った守護神ですが、そこから水運や船旅の安全を願うという信仰も出てきたようです。この怒りの姿に反して、われわれを救うときには子どもの姿として現れるともいわれます」

日本で沙悟浄が河童(カッパ)の姿で現される意味合いがなんとなく理解できる。そして、なにより水運の安全というところに小浜ならではの祈りの意味が見出されてくる。
平安京から北に向けて旅立ち、その拠点・小浜で航海の安全と戦没者の慰霊を弔う心深い田村麻呂の姿。御食国として、食の根本を司る「水」を守る神を置いた都人の願い。静かな境内に身を置くと妄想は膨らむばかりだ。
ちなみに明通寺では「妄想」ではなく、阿字観という「瞑想」の体験をしていただくプランを設けられている。

「水の音や鳥のさえずりなどに気づき、生かされているという想いが芽生えてきます」

一心さんの話をうかがい、歴史の中で小浜に生かされている私たちの意味を改めて考え直したいと思った。
海と都をつないだ小浜のお寺の謎に迫ってみよう。そこに小浜が目指す未来の姿が見えてくるかもしれない。

今回の巡礼の旅(JR東小浜駅から明通寺へ 約60分 7,000歩)

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若狭坊

若狭坊

文化財や食文化を小浜のまちづくりにつなげたい。絶滅危惧種の「山伏」。

福井県小浜市生まれ。小浜市在住。奈良で過ごした大学時代に実験歴史学に触れ、旧街道を江戸時代の服装で調べながら歩く伊勢参りや、江戸時代のからくり玩具の復元、遺跡の発掘調査などを経験。帰郷後、文化財や食文化という小浜市の最上級ブランドをどのようにまちづくりに繋げるかを命題に活動し、プライベートでは絶滅危惧種の「山伏」として野山と社寺を駆け回っている。

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