山に抱かれた寺
市街地から国道27号線を西へ進み、加斗トンネルを抜けるとそこは飯盛(はんせい)地区。左に見えてくる霊峰飯盛(いいもり)山を目指し、静かな山道を抜けたところに深山飯盛(はんじょうじ)寺がある。
同じ漢字でも、「地名・山名・寺名」ですべて読みが違うのでご注意を。
参道の階段を登ると茅葺きが美しい重要文化財の本堂が目に飛び込む。小浜の国宝・重要文化財のお寺のほとんどがヒノキの皮で屋根を覆う雅な桧皮葺き(ひわだぶき)なのに対し、飯盛寺本堂は角度の付いた直線的な屋根にカヤを乗せ、懐かしい山村の雰囲気を伝えている。
走る副住職
「このお寺は同じ重要文化財でも、京都のように観光客がたくさんお参りするお寺ではないです。でも自然と一体となった昔ながらの山寺というのが特徴です。この空間を美しく守り、それをみなさんに体感いただきたいというのが、お寺での私のお仕事です」と、子どもたちに優しく語るのは副住職の杉本成範(すぎもと せいはん)さん。
古くから社寺と山は一体であり、水や木立、岩に至るまで神仏が宿るというのが日本文化の教え。今もお寺に〇〇山という山号があり、山門をくぐって境内に入ることがなによりの証拠だ。
飯盛山を護る飯盛寺は、境内近くに知る人ぞ知るパワースポットの昇竜岩や不動滝などもある。神仏のパワーをいただき、護られていることに感謝する心をもって人々は寺院に集まった。そこには自然環境へのリスペクトだけでなく、人が集まることにより教育や文化が生まれ、地域循環型の経済を生み出すコミュニケーションの場として1000年以上、人々が引き継いできた。
トレイルランを趣味とする成範さんは走り続ける。小学校のふるさと学習だけではなく、山麓集落や飯盛山を舞台にマラソンやトレイルランの実施、夏には子どもたちを集めた寺子屋、自然が楽しめる時期には親子で楽しむフォトロゲイニング、お寺での婚活や音楽コンサートなど、山寺の魅力を様々な事業で存分に発信されているのだ。
本来のお寺の「かたち」を代々引継ぐとともに、かけ算のようなチャレンジでお寺に集ってもらう。その活動はお寺の原点回帰への取り組みなのだろう。
副住職が見つめる未来
子どもたちへの話を終えて「きっと、この環境がいかに恵まれているか。みんな今じゃなく数十年経ったときに、じんわり気づくんだろうな。足りないことや欠点や苦手なことはみんな持ってるけど、何事もチャレンジすることが大事。そんなことを環境に恵まれたこの寺で繋いでいきたい。走る副住職のかけ算チャレンジとして」とつぶやく成範さん。
ご住職を兼務されるあわら市のお寺へと車を走らせる姿を見送りながら、成範さんのチャレンジをこれからも見続け、一緒に走りたいと思った。
四季の神仏に抱かれた山寺を未来につなぐ飯盛寺。いつでも白毛の番犬「ぎんちゃん」が皆さんをお出迎えしてくれる。毎年3月には若狭坊も出仕する柴燈護摩供に、ぜひお越しいただきたい。
この行、どなたでもお参り可能となっている。テレビで御覧になった方もあるかもしれないが、火渡りの荒行も体験できる。みなさんが走る副住職に出会い、昔ながらの山寺で自然に生きる神仏に触れられる絶好の日として覚えておいてほしい。
今回の巡礼の旅(JR加斗駅から飯盛寺へ 約50分 6,000歩)
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