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小浜をまもる風景 vol.1 『飯盛谷の環境を良くする会』

法海地区の大下光彦さん(左)と梅崎俊一さん(右)

加斗トンネルを抜けて国道27号を西に向かって走ると、右手に国の天然記念物にも指定されている小さくこんもりとした緑色の蒼島が見える。左手には山が連なり、麓に美しい田園が広がる。ここは、荒木、黒駒、法海という3つの地区が集まった飯盛地域。
今回は、この3つの地区に「飯盛谷の環境を良くする会 掲示板」という新しい掲示板が設置されると聞いてやってきた。

山間に広がる美しい緑の田園

掲示板を地域の灯(ひかり)に

「今回つくる掲示板は、地域のひかりになって欲しいの。毎晩電灯が灯るとどこからか虫が集まるでしょ?そうやってみんなが集まって、地域の情報を共有したり、みんなが地域のことを話すきっかけをつくりたい。ちょっと例えが悪いけど」そう笑いながら話すのは、飯盛谷の環境を良くする会 会長の地村豊司さん。

「黒駒集落センター」掲示板の設置。真ん中が地村豊司さん

「今まで土手にヒメイワダレ草を植えたり、水路を直したりいろいろしてきた。でも、活動の広報を怠っていたから、みんなに知れ渡っていない。これから土地改良が進むと、地域の活動内容が変わってくる。草刈りなんかの活動は、みんなでもっと助け合うことが必要になってくる。だから、これからは活動の意味を理解してもらう努力をしていかなければならない」と、掲示板を設置する目的を地村さんは説明してくれた。

現在、土地改良の真っ只中。民家の向こうに見えるのが蒼島

3つの地区が集まって飯盛地域として活動するのには、人材を確保するという目的もある。農地の維持や地域資源の価値向上を目的とした地域活動(多面的機能支払交付金事業)は、一見すると農業関係者以外には関係のないことに思われるかもしれない。しかし、飯盛地域のように田園風景と住宅が共存するまちでは、暮らしと密接に関わる活動だ。
「掲示板には、地域活動の報告とお知らせはもちろん、子どもたちの作品を貼ったりしようと思っている。世代関係なくこの掲示板を知ってもらいたいからね。まずは、この掲示板ができた記念に、子どもたちに絵を描いてもらおうかな。子どもの絵こそ地域のひかりになるでしょ」そう言うと、地村さんはさっそく各地区の区長に連絡をした。

思いやりがつなぐ地域の風景

笑顔で作業する大下光彦さん

「自分は地域の便利屋さんですから」愛らしい笑顔でそう話すのは、大下光彦さん。木材に金具を素早く打ち付け、木材の水平をさっととり、あっという間に「法海集落センター」の壁には掲示板が付いてしまった。「手を動かすの好きやから、家の直しも全部自分でやっちゃう。でもね、この掲示板、大袈裟じゃないけど寝ないで構造を考えたの。こうやって現場で設置するのは一瞬だけど何十時間かかっているか分からんよ」と、作業しながら饒舌に説明してくれた大下さん。元々は電動工具などの実演販売もされていたとのこと。工具の扱いや説明がプロ並みなのも納得だ。

あちこちに細かい仕事が光る大下さんの作った掲示板

大下さんの作った掲示板をよく見ると、木材やアクリルの角が丸く整えられていたり、掲示板の高さをねじ込みで調整できるようになっていたり、所々に使い手のことを考えたアイデアと思いやりがうかがえる。さすが寝る間を惜しんで考えられた製品だ。「自宅にも手作りしたものがたくさんあるよ。ちょっと見ていく?」お言葉に甘え、大下さんの作品を見せてもらいに、お宅へ向かった。その道すがら、地区の入り口となる通りにしめ縄のようなものが吊るされていた。「それは、六日講の飾り」大下さんは自宅の庭から教えてくれた。六日講とは一年の豊作を祈る地区の風習。よく見ると、ただのしめ縄ではなく所々に短い木がぶら下がり、何かを形作ったような飾りがある。

地区の入口を飾る神秘的な六日講のしめ縄

「あれは龍。藁が集まっているところが顔。ぶら下がっている木の棒は栗の木で、神様のあぶみ。全部で12人の神様が龍にまたがっている姿を飾りにしているんですよ」法海地区の梅崎俊一さんが説明してくれた。「この飾りもいつまで続けられるか分かりません。顔部分の桟俵を編めるのは、大下さんしかいなくなってしまって」。ちょうど顔部分の目の前が大下さん宅なのは何かの縁だろうか。

飯盛寺で見せてもらった、12人の神様の名前
大下さんは誰にも習わず、桟俵の編み方を見て会得したそうだ

自宅のテーブルランプや机、駐車場の扉など、大下さんの優しいアイデアで作られた作品を見せてもらい、別日には桟俵の編み方まで実演してくれた。「わしは一人暮らしやし、何か頼まれるってことは人と会って話すことやろ?幸い健康やし、みんなのために自分が役に立つことがあればなんでもする。誰かと会うことは楽しいやろ」と、話してくれた大下さん。

大下さんの編んでくれた桟俵と一緒に記念撮影

掲示板がつなぐ風景

「この後、子どもたちには、将来の飯盛地域を画用紙に描いてもらいたいと思っています。そして、この掲示板に順番に貼っていくんです。きっと、そんな絵を大人たちも見たいでしょ」と、掲示板に夢中に絵を描く子どもたちを見つめて地村さんは話してくれた。

「荒木ふれあい会館」の掲示板に夢中で絵を描く子どもたち

子どもたちが描いた地域の好きなものを守り、こんな地域になったらいいなという目標と経過が見えるようにと作られた飯盛地域の掲示板。これから地域の人が集まり、思いをつなぐまちの宝として光り輝いていくだろう。ここに、小浜をまもる風景がある。

次回は、『田烏西部農地保全組合』。お楽しみに!

小浜の風景をまもる人や活動を伝えるパブリックマガジン『小浜をまもる風景』は、小浜市内の各公民館または、小浜市役所2階の農林水産課前で配布しています。このWebバージョンとは違う写真も掲載しておりますので、是非お手にとってご覧ください。

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堀越 一孝

堀越 一孝

フォトグラファー。デザイン事務所UMIHICOの代表。

1982年神奈川県川崎市出身、小浜市在住。 小浜の伝統産業である塗箸の老舗「株式会社マツ勘」で商品企画や広報を行いながら、デザイン事務所UMIHICOの代表をしています。 本職は、フォトグラファー。2014年より写真でまちを元気にする新しい写真の方法『ローカルフォト』を核としたプロジェクトで日本各地をぶらぶらしています。

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