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ここち良き人々を小浜に運ぶ

人は旅をする際、なにを求めるのだろう。美しい風景、おいしい食事、素敵な宿。もちろん、そういう旅を否定はしない。実際、楽しいものだ。けれど、人は驚きや刺激を求め続ける旅は飽きてしまう(豪勢な料理を延々と食べ続けると疲れてしまうのと同じだ)。旅は程々が良い。その土地の日常を感じたい。そう思っている人も多いのではないだろうか。

コロナ禍を経験した旅行者の振るまいが変わって来ているという。特に外国から日本にやってくる人たちの行動に変化が見られるそうだ。東京、富士山、京都というゴールデンルートをすでに経験した人たちが、これまで訪れなかった地方都市へと向かっている。みんなが知っている日本はもういい。ガイドブックにはないリアルな日本を求めているのだろうか。

小浜に住む友人の堀越一孝さんに、「外国からの旅行者は来ている?」と尋ねてみたところ「まったくですね」という愛想のない答えが返ってきた。少々意外だった。小浜は関西圏の主要都市からも近いし、温暖な気候で(北陸地方なのに!)、若狭塗という伝統工芸、国宝や重要文化財などに指定される古刹もある。なにより、「御食国(みつけくに)」として、奈良や京都の都の食文化を支えてきた華麗なる食の歴史がある。小浜は観光地に飽きた外国人旅行者の好きそうなものばかりなのだが、どうやら未だに海を越えてまでは魅力が伝わっていないようだった。原因はなんだろう。小浜には有名な温泉、スキー場、繁華街、テーマパークはない。しかし、ないものを数えても仕方がない。ではなにか。それは、ほんのわずかな縁(えん)なのではないだろうか。

福井県唯一の国宝となる「明通寺」も、観光客を気にせずゆったりと堪能できる

ここ数年、私は年に数度小浜を訪れるようになった。それは先に登場した堀越さんとの縁だ。仮にこの縁がなかった場合、自発的に訪れていたかというと疑問だ。関西出身の私にとって、地理的に近い福井県は馴染みがあってもいいはずだったが、これまで訪れたのは数回程度だった。堀越さんたち家族は関東から長崎県に移住し、その後に兵庫県に移り、小浜に住むようになった。またどこかへ移住するのだろうと思っていると、ずいぶん長く居る。やがて土地を買い、家を建てると言う。ほう、彼らも永住の地を見つけたのかと嬉しく思った。

その堀越さんの誘いで小浜を訪れるようになったが、正直言って最初はあまり魅力がわからなかった。なんだか全てにおいてマイルドだったのだ。あえて言うなら刺激がない。ほかの土地と比べ、これといった突出した差(つまりそれが土地の魅力なのだろう)を感じることがなかった。ただ、どういうわけか居心地の良い場所だということはわかった。それは温暖な気候が影響しているのかもしれない。もちろん冬は寒く、夏は当たり前だが暑い。が、北陸に属しながらも積雪が少なく、概ね穏やかで温暖だという。北陸で大雪のニュースを聞き、堀越さんに雪の様子を尋ねると「ちょっと降りましたね」と、毎回拍子抜けする答えが返ってくる。冬の日本海の海のイメージは北風で荒れ狂う鉛色の海だが、小浜から見える若狭湾はいつも静かで初夏を思わせる青い海だ(荒れる日もあるだろうが)。人の性格は自然を写し取ると聞く。堀越さんから紹介してもらう小浜の人は温和で奥ゆかしい人が多いように思えた(例外はあることに異論はない)。堀越さんに連れられてあちこちを訪れ、小浜のマイルドな魅力が積み重なっていく。

東側の内外海半島と西の大島半島に囲まれた小浜湾は、いつでも穏やかだ

こんこんと湧き出す雲城水(うんじょうすい)で喉を潤し、夜も明けぬ内からたくさんの人が竿を出す小浜港で魚を釣り、おばさんたちがのんびりやっている喫茶店でモーニングを食べ、若狭塗の神秘に触れ、北前船で財をなした商人が作った屋敷を改装したカフェでカフェラテを飲み、老舗和菓子屋で地下水に浮くくずまんじゅうをいただき、船の安全と子どもの無病息災を願うカラフルな化粧地蔵にほっこりし、神仏習合の名残が今も残る神宮寺で静寂に包まれ、雲城水で淹れるネルドリップのコーヒーに唸り、商店街で町の人たちに売る魚屋でみやげものを求め、酒のつまみに若狭小浜小鯛ささ漬けや鯖のへしこを買い、若い店主の作る本格的なイタリア料理にワインが進み、夜が深くなると面倒くさくなってオーダーを取らない地元居酒屋で抜群においしい料理と日本酒を飲んだ。

特別な形で迎えられることはない。日常を味わうのが小浜らしい観光かもしれない

どれも派手さはないが、どこに出しても胸を張れるものばかりだった。しかし、それを小浜の人たちは「すごいでしょう」と自慢することもない。この奥ゆかしさが、小浜の魅力を外にアピールする壁になっているのかもしれない。ただ、小浜がマイルドで純度の高い魅力を保ってこられたのも、この奥ゆかしさがあってのことだ。

ただ、この魅力を経験した者から言わせてもらうと、一度訪れた人はその魅力に捕らわれるということだ。誰かを連れて行きたい、楽しんでもらいたいと思う。その気持ちが縁となり、ここち良き人々を小浜に運ぶ。小さな縁を繋いでいくことが小浜らしい広がり方だと思う。こんなにも素敵な町を観光客が素通りする現状は歯がゆいが、あせることないだろう。私自身、もっと小浜の魅力に触れ、少しずつ伝えていこうと思う。

編集者・ライター・温浴愛好家
井上 英樹

1972年兵庫県尼崎生まれ。ライター、編集者。学生の頃からアジア、欧州、アフリカを旅し、その地に住む人の普通の暮らしに興味を持つ 。大学在学中、ルポルタージュを執筆したのがきっかけで、「訪ねて、尋ねて、書く」ことをはじめる。現在、『FISHUP TRAVELMAGAZINE』(KANZAN)、『ああとも』(国立アートリサーチセンター)、『SKI CLUB』(CAST)、ヘルシアマガジン(エニタイムフィットネス)などで執筆。

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NEST INN OBAMA編集部

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  1. 小浜をまもる風景 vol.4 『勢浜地域農地保全委員会』

  2. ここち良き人々を小浜に運ぶ

  3. おいしいOBAMA 食の手帖 特設ページ

  4. おいしいOBAMA POPUPレストラン開店!

  5. 小浜の暮らしを応援!『おばまチケット2024』

コメント

    • 上田浩人
    • 2024.06.12 12:41am

    なかなか言葉で表現するのが難しい小浜の魅力を発信して頂いて、ありがとうございます😊

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