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私が美味しいと思うものが「究極のへしこ」

小浜湾の内海と若狭湾の外海に包まれた内外海(うちとみ)地区。美しい湾岸道路を走り、長いトンネルを抜けるとそこは田烏地区。「トンネルを抜けるとそこは田烏だった」と、有名な小説の一句を引用したくなるほどの絶景だ。近年まで陸の孤島であったこの地域だからこその景観であり、小浜らしい古きよき文化を引き継ぐ特別な場所である。

トンネルを抜けると若狭湾の蒼と棚田の緑の美しいコントラストが目に飛び込んでくる田烏

その引き継がれてきた大切なものの一つに、伝統的な食文化である「鯖のへしこ」がある。鯖街道の起点として栄えた若狭湾岸において、大量にとれた鯖を1年以上ぬか漬けした伝統的な熟成保存食であり、今も地域の人々にご飯のお供や酒の肴として親しまれている。ただ、近年では需要の増加により、短期間での安定供給や大量生産を目的に、製造の簡略化も進んでいるようだ。

そのような中、伝統的な製法を愚直に引き継ぎ、へしこの旨味を追求されているのが、「民宿かどの」の角野高志(かどのたかし)さんである。「こちらの樽には800g以上の脂ののった国産鯖を背開きにして、無農薬の糠でつけた極上品が押されています」職人らしい太い腕が指す木樽からは、どこか芳醇な香りが漂ってくる。良質なたんぱく質を熟成させて、うま味成分であるアミノ酸を引き出し、樽の菌が生み出す香りとの融合により最高のへしこが誕生するという。

「琥珀色の身・きつね色のぬか・ほのかな芳醇香」が究極のへしこの三大要素

「どれだけ美味しい理想のへしこを作れるか。日々目標にしているが、自分が納得できたものは7年間で1樽だけ」と、優しい笑みをたたえられた。おすすめは薄くスライスしたものを弱火でじっくりあぶったものを少しづくいただくことだという。差し出されたへしこを口に入れると、うま味と芳醇な香りが一体となり押し寄せ、塩分が強いへしこに幼少から慣れてきた私の「へしこ価値観」が一気に変えられてしまった。

琥珀色のへしこをあぶると深い醸造香があたりに広がる

内外海地区の各家庭で作られてきた「へしこ・なれずし」は、同じ製法でもそれぞれでなぜか味が微妙に違うという。「かどのさんのへしこ」は、こだわりの古来製法の継承とともに、かどのさんの人柄がうま味としてあふれ出している。「私が美味しいと思うものが究極のへしこ」だという角野さん。閉ざされていた一地域の食文化と人のやさしさが、御食国の発酵食文化を引き継ぐ歴史の大切なピースとして、全国へと羽ばたき注目されていくことを願う。

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若狭坊

若狭坊

文化財や食文化を小浜のまちづくりにつなげたい。絶滅危惧種の「山伏」。

福井県小浜市生まれ。小浜市在住。奈良で過ごした大学時代に実験歴史学に触れ、旧街道を江戸時代の服装で調べながら歩く伊勢参りや、江戸時代のからくり玩具の復元、遺跡の発掘調査などを経験。帰郷後、文化財や食文化という小浜市の最上級ブランドをどのようにまちづくりに繋げるかを命題に活動し、プライベートでは絶滅危惧種の「山伏」として野山と社寺を駆け回っている。

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