廃校でへしこ作りに本気で向き合う

大自然の中に、ポツンとある旧田烏小学校は今やへしこのお城になっていた。そして、奥にいらっしゃったのは、額に大量の汗をかき、職人姿で首には扇風機を装備したこの城の王子、角野さんである。校舎の2階に上がると、へしこ特有のぬかの芳醇な香りが私達を包み込む。昔から慣れ親しんだとってもいい香りだ。

そして、教室に入ると黒板の前には、数十個の樽が並ぶ異様な光景があった。中の温度はほぼ蒸し風呂状態。
でも、この温度が、角野さんの美味しいへしこの秘訣でもある。へしこ作りは実は暑さがとても肝心で、この暑さがへしこの発酵を促進させる。でも、この暑さではまだ足りず、角野さんはもっと天井を低くしたいと密かに考えているそうだ。

そして、私たちは角野さん自慢のへしこ樽を見せていただいた。樽の素材は、杉とプラスチックと2種類を使用し、それらはいつもビニールで覆われている。それは、虫嫌いの角野さんならではで、虫防止にも効果がある。ビニール、そして蓋を取ると、とても濃く染まったへしこがぎっしり。私のいつも食べているへしことはまるで違い、とても肉厚である。

“へしこ作りは恐怖もある”と角野さんは言う。少なくとも、漬け始めてから一年は必要であるへしこ作り。同じ分量で、同じように育てたつもりでも、1年後の味は樽ごとにまるで違うそうだ。角野さんはへしこ作りを始めて7年。今まで心から満足できたのはたったの1樽。まだまだ日々勉強だそうだ。
そして、角野さんは自慢のへしこを私たちに振る舞ってくださった。角野さんのへしこは焼くと、脂が表面に浮かび上がり、キラキラと光り輝く。この匂いだけでご飯2杯はいけそうだ。ついに、待ちに待った実食。口に入れた瞬間、あれ、私が知っているへしこではない。私がこれまで食べてきたへしこは、塩味がガツンとくるという食べ物という認識であったが、角野さんのへしこは違う。一発目から、サバとぬかの旨味が口一杯に広がる。そして後に塩味が上品に残り、私たちの食欲を掻き立てる。一言で言えば、“お米ががほしい!”このへしこは角野さんの底知れぬへしこ愛と追求心があるからこそだろう。

子供達の声が聞こえなくなった校舎は、廃校という寂しい表現とはかけ離れ、へしこのお城となり、若狭のへしこ文化のこれからを先導し、活気づけている。

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