小浜の名水”雲城水”が湧き出るほど近くに店を構える、創業190年の和菓子屋「伊勢屋」にお邪魔してきた。
伊勢屋といえば「くずまんじゅう」と言われるとおり、夏のお店に入ると、地下30メートルから、こんこんと湧き出る雲城水で贅沢に冷やされる「くずまんじゅう」の姿がとても美しい。一年を通して13℃前後の雲城水は、「くずまんじゅう」にとって専用の冷蔵庫のようなものだ。夏の風物詩として地元はもとより、県外からもくずまんじゅうを求めて、たくさんのお客さんで賑わいを見せる。
2020年秋に代表に就任された、6代目の上田浩人さんにお話を聞いてみた。
白衣の袖をたくし上げた姿や、淡々とした語り口はまさしく「職人」といった雰囲気。
和菓子屋の跡取りとして生まれた上田さんだが、幼い頃から和菓子職人を目指していたという訳ではなく、既定路線のようなものだったそうだ。しかし、大学在学中に4代目が亡くなったことがきっかけとなり、上田さんは大学を中退してまで、和菓子の世界に飛び込んだ。この驚きの判断は、自分自身の将来に対して漠然とした不安を抱いたからだった。大学を中退してまで家業を継ぐというのは、相当の覚悟を持った決断だったのではないだろうか。
こうして、和菓子の世界に飛び込んだ上田さんだったが、5年間の修行は想像を超える厳しいものだったそうだ。
修行先の「京山」は業界で一番厳しいと有名な和菓子屋で、6畳一間に4人の見習が寝食を共にするという環境。言葉遣いや接客、掃除に至まで、必要な教養を厳しく叩き込まれたそうだ。しかし、和菓子の技術はというと、先輩から盗むしか他なかった。覚悟を持って和菓子の世界に飛び込んだが、この5年間の修行で「仕事や和菓子に対する考えの甘さを思い知らされた」と語る上田さん。
以前、上田さんとの何気ない会話の中で、語っていた言葉をふと思い出した。
「美しく甘いものを作る和菓子職人は、泥臭く厳しくないといけない」これまでも、上田さんの生み出す美しい和菓子に魅了されてきたが、今回の取材を通して、この言葉の真意をもっと深く知りたいと思った。
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