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地道な作業と、実体験が新たな道を切り開く

大量の歴史資料を前に、その楽しさを学生に伝える立命館大学 南直人先生

「歴史は資料を読むところから。地味かもしれませんが、何事もこういう積み重ねが最も大切なんです」と、立命館大学 食マネジメント学部の南直人先生は学生たちに向かって話をした。
何か知りたいと思ったら、まず調べる。今は、大半の人がまずスマートフォンの検索サイトを使用するのではないだろうか。インターネット検索は非常に便利だ。知りたいと思った結果をすぐに返してくれる。もちろん、全てが正しい情報とは限らないが。この便利さも自然にできたものではない。たくさんの人が情報をインターネット上に文字化してくれたおかげで叶えられている。

『御食国 若狭小浜小鯛ささ漬History発掘プロジェクト』は、知っているようで、知らない小鯛ささ漬の謎を解き明かすことが目的だ。この日は、悉皆(しっかい)調査と呼ばれる作業を実施。“悉皆”とは、残すところなく全てという意味。文字通り小鯛ささ漬けに関連するだろう情報全てを調査する。

小浜市の古文書といったらこの人。小浜市文化交流課の川股寛享さん

調査対象は、小浜市立図書館に所蔵されている「酒井家文庫」。
「酒井家文庫は、酒井家の酒井忠勝が小浜藩主となった江戸時代の1634年頃から明治まで約250年分あります。これだけ残っているのは貴重。この資料は、酒井家がどのように人々を治めていたのか知ることができる歴史書として、明治に酒井家によって作られました。めちゃくちゃたくさんの資料を集めて編纂しているので、本当に大変だったと思います」と話してくれたのは、小浜市文化交流課の川股寛享(かわまた ひろたか)さん。
酒井家編年史料稿本は816冊。その全ての表紙と裏表紙は木の板で守られ、小浜市の歴史を語る大切な資料として所蔵されている。木の板を外すと、墨で和紙に書かれた古文。和紙は紐で束ねられている。いかにも古文書。当たり前だが、改めて昔の人が和紙に筆で字を書いていたことに驚く。

酒井家編年史料稿本のまえがき

「こうやって酒井家がまとめてくれたおかげで、私たちは知りたい情報に辿り着くことができます。情報は常に更新されるものですから、捏造されることだってあります。だから、資料という歴史的な裏付けを踏まえて、考えを固める必要があるんです。だから、資料調査は地味な作業ですが、一番大切な作業なんです」と、川股さんは資料調査の重要性を教えてくれた。

同じものは二つとない貴重な資料がプロの手で丁寧に保管、調査されている。小浜の大切な財産のひとつ

川股さんの話を聞き、学生たちの悉皆調査が始まった。とは言うものの、初めて古い資料を読む学生たち。しかもその量は膨大だ。調査は「魚へん」や「食材」、「料理名」など関連しそうな言葉を探し、薄葉紙(うすはがみ)と呼ばれる和紙の付箋を挟むことで行われた。
「手書きなので、読みやすいものもあれば読みづらいのもあります。古文が読めないので、読むというよりも、絵の中で間違え探しをやっていることに近いかもしれません。とにかく大変です。でも、昔の人の暮らしとかが記されていることが分かると、ちょっと感動します」と、学生たちは丁寧に一枚一枚ページをめくりながら、長い時間をかけて「鯛」を探し続けた。

情報を探す時、資料も大切だが「百聞は一見にしかず」という言葉がある通り、実際に目にすることも重要だ。酒井家文庫の調査に並行して、小鯛ささ漬を製造する事業者への聞き取り調査も行われた。
「他地域で同じような商品が販売されていたのですが、質は悪く似て非なるものでした。このままでは、他の商品を食べて小浜で作られる小鯛ささ漬も嫌いになってしまうかもしれない。その危機感から、小鯛ささ漬を他地域のものと差別化するため『地理的表示(GI)保護制度』に登録することにしました」と、話してくれたのは「協同組合 小浜ささ漬協会」の田中一恵さん。

小浜ささ漬協会の田中一恵さんは事業者としてではなく、小浜における小鯛ささ漬の歴史や地域における価値を丁寧にお話しいただいた

資料には載りづらい背景や伝承されてきた店独自のことは、当事者に聞くことが情報への近道だ。現場に行くと、小鯛の捌き方や販売規模による体制の違い、それぞれが現在抱える課題など目的とした情報以外のことも知ることができる。
昭和50年代の最も盛り上がっていた頃は、地元学生に小鯛を捌くのを手伝ってもらわねば間に合わないほど需要のある小浜を代表する産品だったが、今は外部の内職に出すほどの量もなくなっていること。鯛という縁起の良いものだからこそ、年末年始などの一定期間に需要が偏ってしまうこと。毎年、使う酢の出来具合によって味の調整を変えていること。注文を受けてから商品を詰めてくれるお店もあること。当事者の話を聞くことで、その商品のことをもっと知りたくなり、食べたくなり、好きになる。

今回印象的だったのは、学生達の小鯛ささ漬に対する現地調査を、事業者の方達が大変喜んでくれたことだ。時代は常に変化する。現代は、酒井家文庫が生まれた時よりも“残す”という方法は容易にできるかもしれない。しかし、その分当たり前を書き留めること、伝えることをしなくなっているかもしれない。

学生たちの質問に、とても楽しそうに、優しく答えてくれた

当事者の声に耳を傾け、関係者だけではなく世代を超えた外部の人間も一緒に悩み、課題を解決する。そして、地域の宝を伝承する。今はまだ間に合う。地域にはそんな原石が、たくさん存在しているのではないだろうか。

㈲鍵仙倉谷商店の代表 倉谷シゲ子さんと一緒に記念写真

2月26日(土)には、この学生達と有識者が「若狭小浜小鯛ささ漬誕生の謎に迫る」と題したオンラインシンポジウムが行われる。オンライン生配信ということもあり、気軽に聞いていただけるこの機会。
ぜひ、立命館大学の学生達だけではなく、小浜市民のみんなで地域の宝について考えるきっかけにしてはいかがだろうか。

おまけ
学生たちの撮影した写真などのスライドショー

text&photo:UMIHICO 堀越一孝

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