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長居したくなる町へ ~小浜微住記 前編~

ゆるさとを育む旅「微住」

小浜微住で大変お世話になった田中家の晩御飯にて

「微住」とは、2017年に台湾からの訪日旅行客に対して、福井県のような地方ならではの旅として提唱をはじめた。いわゆる消費型/スタンプラリー型の“観光”ではなく、暮らしを味わい、その滞在の中で地域に携わり、関係を育みながら馴染む。自身の第3くらいのふるさと名付けて「ゆるさと」をつくる。「微住」は、そんな誰でも参加できる旅のことを指す。
不特定多数に向けた「一期一会」の旅や地域PRではなく、何度も会いに来てもらえる「一期三会」以上の関係を築くことのできる旅の価値付け。それこそが福井県のような地域にはピッタリだと考えた。
2018年に福井微住本『青花魚 さば』を発行後、福井市の東郷地区で受け入れをスタートし、大野市、そして鯖江市の河和田地区など各地の特色を活かした受け入れを行う一方で、私自身も「アジア微住」と題して約2ヶ月に1回、アジア各地のローカル地域に微住してきた。(詳しくはこちら。)
しかし、2020年コロナウイルスの蔓延で、台湾からの微住者の受け入れも、そして自身のアジア微住もできなくなり、このタイミングで福井県を徒歩で17市町を巡る「微遍路」を企画。その道中の小浜で出会ったのが、『NEST INN OBAMA』を運営するほりこしかずたかさんと、株式会社マツ勘の代表の松本啓典さんだった。お2人とは職種は違えど、彼らの地域に対する思いや考え方に共感することが多く、微遍路以降も仲良くさせていただき、彼らが暮らす西津地区を中心とした「小浜微住」を一緒に企画した。

小浜は微住にピッタリな町

小浜微住の拠点となった西津の日常を歩く

小浜には「若狭小浜お魚センター」など観光スポットしか訪れたことがなかったため、以前までは断片的にしか知らなかった。しかし微遍路で小浜市内の色々な地区やエリアを歩いたとき「小浜はきっと微住にピッタリな町だろう」と思った。その理由は長居することでより魅力が咀嚼され味わえる町だと思ったからだ。駅を降りてすぐにあるアーケード街は昔ながらの商店や老舗の喫茶店やご飯屋が並ぶ。
そういう場所にこそ入ってみる、触れてみる、食べてみる、店主と話しかけてみる。そこにはネットには書かれていない自分だけの発見や出会いが必ずある。
アーケード街を通り過ぎ、少し歩くとのどかな日本海が見える。すぐそばには昔ながらの茶屋町「三丁町」がある。歩いてみると、この町はやたらとお寺が多い。国宝や重要文化財の仏像が狭い地域の中に集中している。
そんな小浜は決して短期間サクッと来て魅力が分かるような“映える”まちではない。長居してじっくり暮らしたくなる「地味る」まちだと思う。「地味」という言葉はネガティブに使いがちだが、“土地の味”と書いて「地味」。時間をかけて土地に根付いた町をじっくり時間をかけて味わう。そこでの知識や発見、出会いこそ微住の旅の旨みとなり、一層そのまちが好きになってくる。


今回の拠点となる西津地区は迷路のような小道が海に向かってたくさん走っている。その各筋にはこの地区を中心に見ることができる小浜の名物「おばま化粧地蔵」が祀られ、小道を抜けると海が広がる。静かな港町のこのエリア。天気が良い時は外でぼんやりしているだけでも最高な“長居したくなる町”だ。
地元の方が通う商店や魚屋、もちろん「マツ勘」の他にも若狭塗り箸関連の工房や会社も点在する。お気に入りの町中華「乾杯」や「アップルハウス」は微住中何度も通ったことで自分の馴染みの店になった。

ほりこしさんの熱のこもった案内で「おばま化粧地蔵」を巡る
仕事で小浜にやってきた友人のデザイナー寺田さんと。ここにいるとついつい長居しちゃう

幸せに主導権を持つ人たちの暮らし

食器の場所も覚え、田中家に少しずつ馴染みつつある田中

着色のない日常をいかに味わえるかが肝となる「微住」。本来の暮らしからかけ離れた豪華なホテルは必要ない。むしろ町の暮らしに溶け込む民泊やゲストハウスの滞在がピッタリだ。今回はご縁をいただき小浜市在住の建築家・田中宏幸さんのご実家にお世話になった。
いつも明るく笑い声が絶えない田中家。食卓にはいつも手作りの料理が並ぶ。
初日の晩御飯で出てきた衝撃の美味しさのメンチカツを皮切りに、朝ご飯で出てきたへしこに、パンやドレッシングまで全部手作り。田中家の暮らしは「手作り」が基本。飲み水だって近所の湧き水を汲んできている。世の中の常識やこうあるべきみたいなものに縛られず、自分たちが幸せになれる方法を無理せずやる。幸せに主導権を持つ人たちの暮らし、それを実現できる小浜の豊かな生活資源。こういう町こそ微住にピッタリだ。

暮らしの醍醐味は、旅のネタ切れから始まる

微住は数日経ったあたりからが特に面白くなってくる。
その理由に最初はどうしても格好をつけてしまう点にある。いくら地域の深みの潜りたい微住者でも最初の数日はどうしても受動的に地域の良いところを吸収する。地域の皆さんもゲストに対しておもてなしをしてくれる。それはそれでもちろん楽しいけれど、数日経つとだんだんとそのおもてなしもネタ切れがやってくる。長居しない観光の旅であればそこでおしまいなのだが、そのタイミングからがいよいよ微住らしい暮らしが始まる。少しずつ土地勘のついた微住者は好きなお店やスポットに再度行ってみたり、町を歩いていると顔見知りになった人と再会したり。地域に対していよいよ能動的に手を伸ばし始める。微住の旅の醍醐味はまさにここから始まる。



<後編に続く>

職業 生活芸人
田中 佑典

福井県福井市出身。
アジアにおける台湾の重要性に着目し、2011 年から日本と台湾を行き来しながら、台日間での企画やプロデュース、執筆、クリエイティブサポートを行う“台日系カルチャー”のキーパーソンとして活動。
日本と台湾を行き来する中で、地方創生の方面にて福井発祥の新しい旅の形『微住®』を提唱。2018 年度ロハスデザイン大賞受賞。
2020 年、2021 年と徒歩で福井県 17 市町を巡る『微遍路』を実施。各地域での出会いやその 地域でまだ知らない魅力を発掘する様子が反響を呼び、各メディアにて取り上げられる。現在は福井県内だけに問わず、県外の行政ともタイアップするなど『微住®』の活動を広げる 一方、今後の未来で価値となり得る生活の考え方や暮らし方を様々な形で日々発信している。

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