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20周年を迎えた食のまちの象徴「御食国若狭おばま食文化館」

御食国若狭おばま食文化館

食のまちづくりを始めた小浜市は、条例制定の準備と併せて拠点施設設置も検討し始め、2003年9月、「御食国若狭おばま食文化館」(以下「食文化館」)を開館しました。

観光施設としてのイメージが強い食文化館ですが、「食のまちづくり」で重要視する市民の食育推進の拠点施設でもあります。市内の年長児全員が参加する「キッズ・キッチン」への参加を中心に、小浜市で暮らす現在6歳以上の方は、一度は来てくださったことがあるのではないでしょうか。そのような方に対しても、改めて食文化館の魅力を知っていただきたく、また常に変化、成長していますので、改めて紹介したいと思います。

食文化館1階のミュージアムスペースには、若狭地方を中心に幅広い日本の食文化に関する見事な料理の再現レプリカや写真が並びます。2015年の大規模リニューアルを経た現在は、2013年12月に世界無形文化遺産に登録された「和食―日本人の伝統的な食文化」を意識しつつ、偉大な日本の食文化をこの地から国内外に発信するという意気込みで、700種類を超すレプリカ、人形、写真、映像などを活用して紹介しています。

地域の特色が色濃く現れる「全国のお雑煮」のブースは大変人気で、多くの来館者がここで足を止めて時間を過ごしてくれます。中高年の方々は、自分の生まれ育った土地のお雑煮を探し、幼いころの思い出を語り、若い世代は、日本全国にこのような多様なお雑煮が存在するという事実に驚き、現在の自分の正月の食べ物を振り返るユニークな展示となっています。

また、発酵食品を紹介した「すしのルーツ」のブースでは、若狭小浜の「鯖のなれずし」や「鮒のなれずし(滋賀)」「鰰のなれずし(秋田)」などを紹介する他、酒、みりん、味噌、醤油などの発酵食品の匂いを嗅ぐこともでき、五感で食を感じることができます。ちなみに、小浜の「鯖のなれずし」は、生の魚から作る一般的な「なれずし」とは異なり、鯖を糠に漬け発酵させた「へしこ」から仕立てるもので、ほのかな甘みを感じる優しい味。自然の恵み、手間、知恵などが結集したこの逸品は、2007年にイタリアスローフード協会より、食の世界遺産と言われている「味の箱舟」に選ばれています。

さらに、四季折々の山や海、里の幸を活かした小浜の家庭料理のブースでは、「山菜の白和え」「里芋とイカの煮物」「煮魚」「叩きごぼう」「いとこ煮」など、季節ごとの日本の「おふくろの味」が、百種以上も並びます。これらのレプリカを制作する際には、日本を代表する食文化の研究者の監修を得るとともに、地元の主婦の皆さんから丁寧に聞き取り調査をし、実際に全ての料理を手作りしていただいたものがベースになっています。
だから、展示されている料理レプリカの一つ一つには、小浜ならではのハレの日を彩る華やかな行事食と季節感、温かみのある日常の家庭料理、その両方を、絶やすことなく次代に繋いでいこうという地元の皆さんの温かな思いも込められています。

そして、食文化館の最大の特徴は、ミュージアムスペースに「キッチンスタジオ」が併設されていること。
食や食文化を観て読んで学ぶだけでなく、有志で集まった地元の主婦たちからなる市民グループの指導のもと、実際に自分で作り(料理)味わう(食べる)ことができるのです。

このキッチンスタジオは、利用者や催しのタイプに合わせて調理台のレイアウト等、調理する環境を自由に変更できる他、多様な調理器具や食器、大人、子ども用のエプロンなどの用意とともに、熱源についても、IH・ガス、薪を使った「かまど」も揃っており、私自身、このような魅力あるスタジオを他で見たことがありません。このような体制は、やはり年間数千人の子どもだけでもなく、老若男女多様な体験者を受け入れてきた実績ならではであると自負しています。このようなキッチンスタジオで、日々どのような食育事業が行われているかについては、別の機会に詳しく紹介したいと思います。

食文化館の2階には、若狭塗や若狭和紙、若狭めのう等の伝統工芸の体験ゾーンが設置されています。特に若狭塗箸は、江戸時代より小浜藩主酒井忠勝公が奨励したこともあり、現在も、塗箸全国シェア70%以上を占める市の重要な産業です。日本の食文化を知る上で大変重要な「箸」。食文化館では、箸の歴史や文化、作法を学ぶとともに、伝統工芸士指導のもと、世界にひとつだけの「マイ箸」を制作することもできます。

このように、食文化館は、様々な角度から日本の食や食文化を学び体験できる施設。ただの観光施設ではなく、小浜市の食育事業の拠点施設として、これまでに様々な食育事業を生み育てています。

食文化館は人と人とが出会い、つながる場所

食文化館が、2003年9月に小浜市の「食のまちづくり」の拠点施設として開館して以降、来館してくださる市民や国内外からの幅広い世代の方々には、展示をご覧いただき、お料理や塗箸をはじめとした伝統工芸などを体験していただく他、食育や食文化についてスタッフとともに熱くディスカッションしていただいてきました。そして、この秋でまる20年。

これまでの来館者は、約3,998,000人、キッチンスタジオでのお料理体験者数は、約94,000人、工芸体験は若狭塗箸の研ぎ出し体験を中心に約160,000人です。(ちなみに、1,2階のミュージアム棟とともに頑張ってきた3階の温浴施設「濱の湯」の利用者数は、約2,760,000人)つまり、この20年の間、毎年約200,000人が食文化館を訪れ、約4,700人がお料理の体験をし、約8,000人が工芸体験をし、約138,000人が、お風呂を利用してくださった、という実績なのです。(いずれも、2023年8月31日現在)。

時代や社会の変化に柔軟に対応し、求められるあり方に惜しみない努力をしながらも、少しもぶれることのない「食のまちづくり」の理念を持って運営をしてきました。

私は時々「不易流行(ふえきりゅうこう)」という言葉を思いうかべます。

「不易流行」とは、いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しいものや変化しているものを取り入れていくことです。
時代が変わろうと、政治のリーダーが変わろうと食のまちづくりの理念や、その拠点施設である食文化館のコンセプト、いわゆる両者の本質は、何も変わりません。ただ、時代に合わせた変容はとても大切で、特に若い世代や広い視野をお持ちの地域内外の方々の感覚やご意見は、最大限に受け入れたいと考えています。変わらない本質と、変わることができる柔軟性の両方を持てることがカッコいいと思っています。

そのような思いを抱く中で、私たちは2021年度に策定した「食のまちづくり計画(注1)」において、食のまちづくりの将来ビジョンとして、「ウェルビーイング(注2)」という概念を掲げました。

「ウェルビーイング」とは、一言でいうと、そのままの日本語訳で「(自身の心身が)良くある」ということなのですが、もう少し身近なイメージで解釈すると「実感できる幸せ」だと思います。「実感できる幸せ」とは実に多様です。物理的な条件や他者からの評価とは異なる、本人だけにしかわからない「幸せ感(観)」というものがあるように思います。

そして、個々に異なる多様な「ウェルビーイング」ですが、やはりそれを高めるための共通項があり、その中で、くらしの中に人との「出会い」「つながり」を持つことが特に大切であるといわれています。

このことから、食文化館がこれまで以上に「食を介して人が出会い、つながる場所」となりたいと考え、2023年の夏、食文化館海側の半屋外スペースであるマリンデッキを改修、「MIKETSUKUNI MIKKE DECK」というロゴも作成しました。

これからは、館内の展示見学や体験とともに、この「MIKETSUKUNI MIKKE DECK」においても、様々な食関連の催しを行い、そこに集う人々が、出会いやつながりの中から大切な何かを見つけ(MIKKE)、そのことが個々の、そして小浜市のウェルビーイングを高めていく、そのような場として成長していきたいと考えています。

補足

注1 「食のまちづくり計画」
この計画は、小浜市の第4次小浜市食育推進計画にあたる計画で、計画期間は2021~2025年までの5年間。
基本方針として、これまで小浜市が標榜してきた「生涯食育」および「義務食育」を継続し、市民一人一人の心身の健康に対するアプロー チ、いわゆる「個人に対する食育」と、「食によって地域経済を育む」という本市独自の食育観のもと「地域経済のための食育」という2分野について23の推進事項を盛り込み、この計画によって実現する将来像に「ウェルビーイング」を掲げている。
食のまちづくり計画(第4次小浜市食育推進計画) | 小浜市公式ホームページ (city.obama.fukui.jp)

注2 ウェルビーイング
ウェルビーイング(well-being)とは、「良い状態」「よく在る」という意味を表す言葉であり、世界保健機関 (WHO)では、「身体的・精神的・社会的に良好な状態」としている。小浜市では、ウェルビーイングを「食で人々の幸せと地域の豊かさが実感できるまち」と解釈し、市民への普及啓発に努めている。

お知らせ

御食国若狭おばま食文化館 開館20周年記念イベント「食とくらしのウェルビーイング」

「御食国若狭おばま食文化館」の開館20周年を記念して、豪華ゲストを招いた市民とのディスカッションイベントを開催します!
ゲストは、アジア・アフリカ地域の持続可能な国づくり・地域づくりプロジェクトを担当された福井県立大学准教授の高野翔氏や、ミシュラン関西版が2010年に初版された際、唯一西洋料理で一つ干しを獲得された京都市のBiographie…のオーナーシェフ滝本雅博氏、京都市のパティスリー・サダハル・アオキ・パリの烏丸御池店長の萬福天弓氏。
イベントでは、限定で滝本シェフのお料理の試食もあります!予約制になりますのでお申し込みをよろしくお願いいたします。

【申し込み・お問合せ】
御食国若狭おばま食文化館(食のまちづくり課)
TEL: 0770-53-1000
E‐mail: mermaid@city.obama.lg.jp

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中田典子

中田典子

小浜市の食のまちづくりと食育を広げる「小浜市 食のまちづくり政策幹」

2003年4月小浜市政策専門員(食育)に就任し、小浜市の食育全般を担当。以降、食育や食文化を活用した地域の課題解決策の企画・実践に携わる。2008年より総務省「地域創造力アドバイザー」として他自治体や企業、大学などを対象に広域的な活動にも携わる。2015年ミラノ国際博覧会では、イタリア在住の子ども料理教室を企画・実践。小浜市の食のまちづくりや食育事業を国内外に紹介する。近年は、業務の傍ら、「食環境と人の心の関係」を研究テーマとして、大学院博士課程に在籍している。 ----【著書】 『食と農を学ぶ人のために』 2010年世界思想社(共著) / 『五感イキイキ!心と体を育てる食育』 2011年新日本出版社(共著) / 『海とヒトの関係学 日本人が魚を食べ続けるために』2019年西日本出版社(共著)

  1. 食育がまちにもたらすものとは?先進地小浜の取り組みと子ども達の成長(中編:なぜ食育なのか?食育の効果)

  2. 食育がまちにもたらすものとは?先進地小浜の取り組みと子ども達の成長(前編:食育の歴史と小浜でのはじまり)

  3. 20周年を迎えた食のまちの象徴「御食国若狭おばま食文化館」

  4. 食べ物がおいしいだけではできない『小浜の“食のまちづくり”』のはじまりと今

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