GOSHOENから生まれる未来

「八朔(はっさく)がそろそろ収穫の時期ですよ。」松本啓典社長のインタビューを終えた頃、格子窓から見える外は薄暗くなっていた。その景色に、鈴なりの黄色い果実だけが映えて見える。
ここ「護松園」は元々、古河屋という小浜を代表する北前船の商人が建てた別邸だった。北前船とは、江戸時代から明治時代にかけて、日本海沿いにある北海道や下関などの港を往来していた貿易船である。この歴史ある護松園を若狭塗箸のメーカーである株式会社マツ勘がリノベーションし、2021年5月「GOSHOEN」としてオープンさせた。

株式会社マツ勘の代表取締役、松本啓典さん

「歴史的価値がある県の有形文化財として残されていた護松園ですが、長年誰も使用していませんでした。その護松園を活用することで、先人が培ってきた文化や産業と、私たちが大切にしている“ものづくり”の価値を融合させることで、深みのある小浜のものづくりを表現できるのではないかと考えたのが、GOSHOENを手がけたきっかけです。」と松本さんは語った。

マツ勘の主な事業は、箸の仲卸。松本さんは、箸を一方的に卸すだけではなく、実際に使うお客様と直接コミュニケーションを取りながら、箸を届けられるような新たな事業を行いたいと考えていた。
「箸を販売するには、当たり前ですが箸を作らねばなりません。その箸をこれから先もお客様に魅力的なものとしていくには、箸職人の価値を残すお手伝いをしなければなりません。産地を続けていくためには、自分達がお客様と職人の架け橋となっていくことが大切だという責任感を抱いています。」

GOSHOENに入るとまず、煌びやかに並べられたお箸が目に入る。スタッフの松浦千容さんは「この角度から見える並びが好きです。」と話す。一膳一膳をじっくり見ると、箸職人のアイデアや技術が浮かび上がって見えてくるようだった。

松浦さんが好きな角度から見るGOSHOENに並ぶ箸

私が思うGOSHOENの魅力の一つは、“若さ”である。社長をはじめ、スタッフや客層も、若い方が多い。あらゆる産業や暮らす街の世代交代が困難な中、これだけ若い世代が集まっていることは、すごく価値のあることだと思う。

「人材確保が難しくなってきている今日において、リクルーティングも目的の一つです。自社だけでなく、地域の産業で人材が欲しいと考えているところはいっぱいあると思います。GOSHOENから横の繋がりを広げ、紹介できるような取り組みも、今後は考えられるかもしれません。小浜全体としての産業や街の力が増していくような手助けになっていけたら良いと考えています。」と松本さんは話す。

スタッフの松浦さんは、最近Uターンで小浜に帰ってきた。友人と初めてGOSHOENに訪れた時、小浜に魅力的な空間が出来ていたことに驚いたという。そして、GOSHOENで働きはじめた。
「松本社長やマツ勘で働くスタッフからは、それぞれの強みや良さをしっかり見てもらっていると感じます。若いとか入ったばかりとか関係なく、自分のやりたいことを聞いてもらったり、どうやったらいいのか聞いてもらえます。」
マツ勘の考え方やあり方が、会社の働き手が若いという点での健全度を保っていたり、新しい事業に挑戦できたりする一つの要因になっているのだと感じる松浦さんの言葉だった。

最後に、GOSHOENに人が集まったり、何度も来たくなったりするきっかけには、「ene coffee stand(エンコーヒースタンド)」の役割が非常に大きい。この日はおすすめを聞き、ヘーゼルナッツラテを注文した。

オススメのヘーゼルナッツラテ

バリスタの倉谷愛加さんは、この日も明るい声で話のきっかけをくれた。
「開店前にお店の名前決めておいてと課題をもらった帰り道、車の中で『エン』しかないと思いました。ひとつ目のエンは“ご縁”という意味から。」倉谷さん自身、バリスタの先生やマツ勘のスタッフとの出会いなどを経て、ここに居ること。すべてご縁が積み重なって、ene coffee standのバリスタをしている。人とのご縁を誰よりも彼女自身が大切に思ってきたのだと感じた。

バリスタの倉谷愛加さん

「私やスタッフとお客様、そしてお客様とお客様のご縁から、“円”を描くようにして、交流が生まれたり深まったりすればいいなという願いも込めています。GOSHOENのコンセプトである“みんなの別邸”に近づくためには、まだまだ改善できることは多く、日々学ぶことばかりですが、ふらっと立ち寄ったり、心地よく過ごしたりして頂ける空間作りをしていきたいです。」
GOSHOENが目指していることはどれも、そこで生まれるコミュニケーションによって達成されると思う。コミュニケーションを深めるには、何度も来たくなるという動機が必要。スタッフたちの明るい声かけや柔らかな態度も、また来たくなる魅力の一つなのではないかと感じた。

GOSHOENの笑顔溢れるスタッフ。真ん中が松浦千容さん

GOSHOENの庭で生きている八朔の木は、2019年に他界された箸職人、的場政義さんから受け継いだもの。的場さんのお庭から移り、もう実はつけないかもと言われていた木は、たわわに実を成らせた。この八朔の木もそうだが、インタビューの中でGOSHOENは、過去を受け継ぎながら、未来に向けた願いが込められたみんなの場であると感じた。

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岡本竜平
福井県小浜市生まれ。石川県で7年過ごし、ふたたび小浜で暮らしています。子どもの頃はインドア派だったし、じいちゃんの田んぼを手伝った記憶もないのに、今は農業法人「永耕農産」の社員です。動機は「地域の役に立つ人生の使い方いいじゃない」。農業は学べば学ぶほど面白みを感じてきています。米、野菜って動物のように育てるものじゃないだなって。