職人さんに会うと、その伝統産業の解像度がぐっと増す。お話を聞くまで私は、塗箸産業が盛んな小浜で生まれ育ちながら、若狭塗を記号的な“伝統産業”としてしか知らなかった。
小浜の12月とは思えない暖かな日が差す作業場で、「古川若狭塗店」4代目の古川勝彦さんは若狭塗箸の最後の磨きをしていた。
磨かれている塗箸は、細やかな卵の殻と、煌びやかな貝殻とが交互に入れ込まれている。若狭塗の装飾に使う素材は昔から変わっておらず、卵の殻や貝殻、松葉や絹糸などがあるが、それらの配置の仕方や模様は職人ごとで個性が出るそうだ。
この頃、近隣の和紙職人さんから、勝彦さんが描く模様は、父親であり3代目の光作さんのそれと似てきたと言われるそうで、嬉しいと話してくれた。
13年前に若狭塗職人の道へ進むことを決めたが、その矢先、光作さんがご病気になられた。作業されている姿を観て学ぶ機会は少なかった。そのため、光作さんが残した作品を観察しながら研究を重ねてきたという。
身近であるがゆえに、箸を買わないことを慣習とする小浜人の私だったが、古川さんの工芸に触れると、購入して日常で大切に使いたいと思うようになった。作業場には、箸先が欠けてしまったというお客様の一膳が、綺麗に修理されていた。
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