小浜には130ものお寺と、90以上の神社がありますが、その寺社を守る(修繕)大工のことを宮大工というのをご存じですか?
宮大工の大きな特徴は、木組みによる建築技法(釘を使わなず組み立てる)を用いることで寺社の建築や修繕を行う点です。
小浜市口名田在住の上山聖さんは、1級建築大工技能士の資格を持つ女性宮大工です。栃木県の会社で宮大工の修業を8年積み、同じ会社で出会った宮大工の先輩である哲朗さん(修行13年)とご結婚。ご主人が6年前に父親の会社(株式会社忠建築)を継ぐため先に小浜市に戻り、その1年後に聖さんも小浜に移住されました。
大工は男性職人ばかりの現場。聖さんの宮大工としての最初の3年は、みんなの食事作りと掃除が主な仕事でした。修行中は、その仕事をやりながら先輩達の仕事を見て学んでいたそうです。そんな辛い修行も8年目。聖さんは上司から「現場を仕切ってみるか」と任されるようになります。まさに、もっと仕事がしたい!仕事が楽しい!と充実していた時でした。一人前の宮大工になるためには、およそ10年にもおよぶ修業が必要だと言われているのだそうです。
「そんな時、哲朗さんからプロポーズされ、退職して小浜に行くかとても悩みました。女性として結婚し、妊娠出産子育てを経験したい。でも、仕事ももっとしたい。結婚して小浜に行くか、別れて栃木で宮大工に専念するか、2つの思いに人生で最も悩みました」聖さんは、その時の葛藤を語ってくれました。
そんな中、上司に相談。「宮大工は全国で足りていない。こちらの仕事を小浜で依頼することもできる」という言葉が決断のきっかけとなり、結婚を決意しました。そしてもう一つ、結婚を決断した出来事が。それは、先に小浜に戻った哲朗さんが宮大工として最初に手掛けた、小浜市阿納にある「蓮性寺(れんしょうじ)」の山門を見たことでした。
一緒に見に行った時、単純にすごい!さすが!と感動。それと同時に、まだまだ敵わないと感じたそうです。もともとなんでも言い合える仲であり理解者でもあり、仕事においては切磋琢磨できる存在。だけど、いつか超えたい相手でもある哲朗さん。でも、やっぱりまだまだ敵わない。そして、この仕事に一緒に関わりたかった。この小浜で、夫婦で地元に愛される寺社を建てていきたい。と強く思ったそうです。
関東では新築で建てるお寺が多く、栃木では一から建てる多くの経験が出来たのだそう。しかし、小浜で新築はほぼ無く、大半が修理の依頼。また、その修理さえも、地区で守られている寺社はすでにお抱えの職人がいたり、修理そのものを地区の人が望んでいなかったりと、なかなか宮大工の仕事はなかったそうです。
宮大工は資格を保持しなくても名乗ることは出来るそうです。しかし、聖さんが1級建築大工技能士の資格を取得したのは、自分を極めたかったことはもちろん、仕事で信頼を得るためだったそうです。
例えば、神社の氏子に修繕の説明をする際にも、「1級建築大工技能士 宮大工」と書いた名刺を渡すと、信頼度がぐっと上がると言います。
修理一つにしても、氏子や檀家に説明し、さらに地区で話し合い、お金を工面する(寄付を募る等)まで1年や2年で決まることはなく、現実なかなか依頼されにくいそうです。
そんな中、聖さんが小浜に来てから夫婦二人で手掛けられた寺社があります。
一つは小浜市加斗にある「松原寺(しょうげんじ)」。
本堂にある位牌堂の修理と庫裡(くり:住職が住む場所)の増築を手掛けたそうです。
二つ目は、同じく加斗にある「黒駒(くろこま)神社」の社務所(神社の中にあり、事務所のような役割を果たす場所。)も手掛けました。
ここでは、おみくじ掛けは哲朗さんが設計し、聖さんが一人で作り上げました。
小浜に来て3年目、長男を出産し、1年後に復帰しましたが、その後二人目(長女)を授かり、現在(2023年)は二人目の育児休職中の聖さん。
聖さんに、今の夢はなにか聞くと、「昔は現場棟梁になるのが夢だったけど、今は生涯現役現場技術者かな」と。
その理由は、「現場棟梁は簡単に務まらない。四六時中、現場のことを考えていないといけない。それを解っているから、きっと育児も仕事も中途半端になってしまう。性格的に中途半端になってしまった時、自分に納得がいかず嫌いになってしまうだろう。それだったら、今の技術を追求していきたいという気持ちが強くなった」と答えてくれました。
また、それは、結婚出産し、大切な存在が出来たことで物事を柔軟に考えられるようになり、現場棟梁というものにとらわれなくても良いなと思えるようになったと。
聖さんの育児休職も残りあと2ヵ月です。復帰前に、宮大工という仕事の面白さを多くの子供たちに伝えたい。と思い、今回小浜で「子どもの木工教室」を初開催します。
なかなか絵本では出てこない宮大工。「こんな仕事もあるんだと、将来の選択肢の一つになればいいな。また、木のぬくもりに触れて喜ぶ子供たちの笑顔を見たいの」と。
以前、ヨガピクニックママサークルで焼き芋パーティーをした際、年少の男の子に薪につかう木材をのこぎりを使って切る作業を教えました。その際、けがをさせないように。だけど、「切れる」という体験を実感してほしいと思ったそうです。そして、今まで習うばかりで教える立場になったことがないからこそ、復帰前に自分の力を試してみたいと思いました。
道具がとにかく好きと語る聖さん。なんと自ら「かんな」(道具の一つ)を作ってしまうほど。「柱は一つ一つ太さが違うから、その柱の丸みを出すためには、既存のかんなじゃ出せないのよ。だから、自分で作っちゃうの」と。
また、「宮大工の使う道具は普段見ない道具ばかり。息子も色々な道具を見るのが大好き。ほかの子供たちにも道具を見せてあげたい」と優しい口調で語ってくれました。
取材の最後、哲朗さんから、「道具マニアでとにかく拘りが強いんですよ。人と同じことが大っ嫌いな性格で。でも、そこが職人としての強みなんですよね。いい記事、書いてやってください」とこそっと言われました(笑)。
私が、「穏やかに話す哲朗さんは職人っぽくなく優しさがにじみ出てますね」と伝えると、「いつもその話し方で勘違いされるのよね」と笑いながら話す聖さん。取材中、ずっと二人の掛け合いに笑いは止まらず、とても素敵なご夫婦を取材できて、とても楽しかったです。
~宮大工ってどんな仕事?宮大工に習う木工教室~ 日時:3月23日(土曜日)10時30分〜11時30分 場所:忠建築工場 定員:10組 参加費:500円 内容:コースター作り 組立式えんぴつ立て(年少以上) ※釘を使わず組み立てます。 申込方法:ヨガピクニックママサークルInstagramに 氏名、年齢、連絡先をご記入の上DMください。
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